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8.リーシュの祭典
⑥
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それからは、気になるお店を片っ端から訪れた。
通りに並ぶお店には女神様をモチーフにしたアクセサリーやおもちゃの英雄の剣など、さすが祭典の日だけあって伝説に関連するものがたくさん売られている。
食べ物もたくさん並んでいた。こちらもやっぱり伝説に関連付けて、女神様の弓をかたどったチョコレートや、リスベリア王国の形をしたクッキーなんて商品があちこちで売られている。
浮かれて走り回る私を、サイラスは後ろから笑みを浮かべて眺めていた。
はっとして、慌てて隣に戻る。
今回の人生でサイラスを幸せにするために生きようと決めているのに、結局いつも私のほうがはしゃいで終わってしまう。ちょっと反省しているのだ。
「お嬢様、もう見なくていいんですか? あちらにお嬢様の好きそうな光る飲み物を売っていますよ」
「え? どこどこ? ……い、いえ! いいの。ちょっと座れるところに行きましょう。演劇とかどうかしら」
「本当にいいんですか? でも、演劇もいいですね。行ってみましょうか」
お店を回るのは一旦やめにして、通りの端にある小さな劇場を訪れた。今日の演目は当然、リーシュ様とベルン様の伝説に関するものばかりだ。
演劇はとってもおもしろくて、感動してうっかり涙まで出てきてしまった。
特に死んでしまったと思われた勇者ベルンが再び目を覚ます場面では、涙があとからあとから流れて止まらなかった。
劇場を出てからはまたお店を回ったり、飾りつけられた街を眺めて歩いたりして過ごした。
時折、知り合いのご令嬢とすれ違って、なぜだが興奮気味に話しかけられたりもした。
去年までの張り詰めた空気の中で行われる準備の時間が嘘のようだ。お祭りってこんなに楽しかったのね。
「サイラス、次はどこに行きましょうか?」
私は笑みを抑えきれないまま、振り返ってサイラスに尋ねる。
しかし、サイラスの後ろに見覚えのある人影を見つけてしまった。よく目立つ金色の短い髪に、派手な赤いロングコート。ミリウスだ。
ミリウスはいつもの二人の従者のほかにもたくさんの臣下を引き連れ、堂々とした態度で道を歩いていた。
道を歩く人々が興奮気味にミリウスに手を振っているのが見える。
ミリウスの謹慎期間はとっくに終わっているはずなので祭典にいるのはおかしいことではない。けれど、ここで出くわすとは思わなかったので少々驚いた。
ミリウスはいつもの不遜な態度からは考えられない王子様然とした笑みを浮かべて、道行く人々に手を振り返している。
「サイラス、見て。ミリウスだわ。あんな人のよさそうな顔もできたのね」
「本当ですね……。お嬢様、反対方向に行きましょうか」
サイラスはミリウスのほうを横目で見ると、すぐさま私を反対方向へ誘導しようとした。
しかし、別方向に歩き出そうとした瞬間、ミリウスと目が合ってしまった。ミリウスは驚いたようにこちらを見た後、早足でこちらに近づいてくる。
そのせいで周りの人々の視線が一斉にこちらに集中してしまった。
「……エヴェリーナ!」
「ミリウス殿下、どうかなさいましたか?」
作り笑顔で尋ねると、ミリウスは視線を彷徨わせる。
その間にも人々の注目はどんどんこちらに集まっていた。せっかく今日は目立たない服を着てきて、注目されないようにしていたのに。
通りに並ぶお店には女神様をモチーフにしたアクセサリーやおもちゃの英雄の剣など、さすが祭典の日だけあって伝説に関連するものがたくさん売られている。
食べ物もたくさん並んでいた。こちらもやっぱり伝説に関連付けて、女神様の弓をかたどったチョコレートや、リスベリア王国の形をしたクッキーなんて商品があちこちで売られている。
浮かれて走り回る私を、サイラスは後ろから笑みを浮かべて眺めていた。
はっとして、慌てて隣に戻る。
今回の人生でサイラスを幸せにするために生きようと決めているのに、結局いつも私のほうがはしゃいで終わってしまう。ちょっと反省しているのだ。
「お嬢様、もう見なくていいんですか? あちらにお嬢様の好きそうな光る飲み物を売っていますよ」
「え? どこどこ? ……い、いえ! いいの。ちょっと座れるところに行きましょう。演劇とかどうかしら」
「本当にいいんですか? でも、演劇もいいですね。行ってみましょうか」
お店を回るのは一旦やめにして、通りの端にある小さな劇場を訪れた。今日の演目は当然、リーシュ様とベルン様の伝説に関するものばかりだ。
演劇はとってもおもしろくて、感動してうっかり涙まで出てきてしまった。
特に死んでしまったと思われた勇者ベルンが再び目を覚ます場面では、涙があとからあとから流れて止まらなかった。
劇場を出てからはまたお店を回ったり、飾りつけられた街を眺めて歩いたりして過ごした。
時折、知り合いのご令嬢とすれ違って、なぜだが興奮気味に話しかけられたりもした。
去年までの張り詰めた空気の中で行われる準備の時間が嘘のようだ。お祭りってこんなに楽しかったのね。
「サイラス、次はどこに行きましょうか?」
私は笑みを抑えきれないまま、振り返ってサイラスに尋ねる。
しかし、サイラスの後ろに見覚えのある人影を見つけてしまった。よく目立つ金色の短い髪に、派手な赤いロングコート。ミリウスだ。
ミリウスはいつもの二人の従者のほかにもたくさんの臣下を引き連れ、堂々とした態度で道を歩いていた。
道を歩く人々が興奮気味にミリウスに手を振っているのが見える。
ミリウスの謹慎期間はとっくに終わっているはずなので祭典にいるのはおかしいことではない。けれど、ここで出くわすとは思わなかったので少々驚いた。
ミリウスはいつもの不遜な態度からは考えられない王子様然とした笑みを浮かべて、道行く人々に手を振り返している。
「サイラス、見て。ミリウスだわ。あんな人のよさそうな顔もできたのね」
「本当ですね……。お嬢様、反対方向に行きましょうか」
サイラスはミリウスのほうを横目で見ると、すぐさま私を反対方向へ誘導しようとした。
しかし、別方向に歩き出そうとした瞬間、ミリウスと目が合ってしまった。ミリウスは驚いたようにこちらを見た後、早足でこちらに近づいてくる。
そのせいで周りの人々の視線が一斉にこちらに集中してしまった。
「……エヴェリーナ!」
「ミリウス殿下、どうかなさいましたか?」
作り笑顔で尋ねると、ミリウスは視線を彷徨わせる。
その間にも人々の注目はどんどんこちらに集まっていた。せっかく今日は目立たない服を着てきて、注目されないようにしていたのに。
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