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6.王宮への招待

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 困ったことに、私には突きつけられるような確かな証拠はなかった。あの日ミリウスとカミリアの世話係を見かけたのは私とサイラスだけだし、本当だと証明する術はない。

 嘘だと言われてしまえばそれまでだ。

 それでも、私は当日二人がいた場所や、時間、様子などを思い出せる限り詳しく話しておいた。話す度に会場の温度が変わっていくのを肌で感じる。

 ジャレッド王子は私の証言を全ていまいましげに否定したけれど、そばに控えていた役人は真剣な顔で聞いてくれた。

 ミリウスを取り囲んでいた衛兵たちも、状況の変化に彼の腕を離す。

 その様子を見ていたらミリウスと目が合った。彼は顔を強張らせて睨むようにこちらを見ている。嫌いな私が割って入って来たのが気に入らなかったのかもしれない。

 せっかく証言をしてあげたのに恩知らずだなと思いながらも、私は証言を続けた。


 結局、その日のパーティーは盗難騒動のため、騒ぎが収まらないまま中止となってしまった。私は残って役人に改めて詳しい話を聞かれた後、ようやく家に帰ることができた。

 やっと解放され、帰りの馬車の中で息を吐く。


「あぁ、疲れたぁ。こんなに時間がかかると思わなかったわ」

「お嬢様、お疲れ様でした」

「疲れたけれど、運が良かったわ。騒動のせいでジャレッド王子とカミリアが絡んでくる間もなくパーティーが終わったし」

 二人はミリウスの件が片付いたら、私に嫌がらせする気だったのではないだろうか。わざわざ私を王宮に呼んだのはそういうことだろう。

 けれど、予定外に話し合いがこじれたので、そんな余裕はなくなってしまった。運が良かった。

 ただ、パーティーが本格的に始まる前に終わってしまったせいで、サイラスと踊れなかったのは残念だけれど。


「お嬢様、とても立派でした。……けれどミリウス殿下のために、ジャレッド殿下に目をつけられるリスクを冒してまで証言をする必要はなかったのでは?」

 サイラスは納得のいっていなそうな顔で言う。

「なんだかあの光景、身に覚えがあって見ていられなかったのよね」

「お嬢様……」

 サイラスの顔に悲しげな色が差す。ジャレッド王子に言いがかりをつけられて、婚約破棄されたときのことを言っているのだとわかったのだろう。

「やだ、そんな顔しないで。私もう全然気にしてないの」

「ですが、お嬢様」

「それより、今日はサイラスが来てくれて嬉しかったわ。途中で慌ただしくはなっちゃったけど。
また一緒にパーティーに出てちょうだいね。今度は王宮のじゃなくて、どこかもっといい人が主催するパーティーがいいわ。今度こそサイラスと踊りたいの」

 笑顔で言ったら、サイラスも悲しげだった顔を緩める。

「私でよろしければ、いつでもお供します」

「本当? 約束よ」

 私は嬉しくなって、サイラスの腕をつかむ。サイラスはちょっと動揺した顔をしながらも、そのままにしておいてくれた。


***

 数日後、アメル公爵家までやってきたミリウスの二人の従者によって、あの事件の顛末を聞かされた。

 ミリウスは城で数日間の謹慎処分になったらしい。実際に神具を持ち出してはいるのでそれは仕方ないことだ。

 けれど、従者たちの言うことには私が証言したことでミリウスが単独で神具を盗んだかどうかに疑問が残り、処罰は随分軽くなったのだという。

「本当にありがとうございました。エヴェリーナ様」

「エヴェリーナ様がいなければ、謹慎程度では済まなかったはずです」

「いいえ、私は大したことを言ってないわ。二人があのシスターを連れてこなかったら、聞かなかったことにされていたと思うし」

 私が証言できたのは、糾弾事件の十日前にミリウスとカミリアの世話係を見かけたということくらいだ。決定的な証拠になることは何も言えなかった。

「いいえ、そんなことはありません! エヴェリーナ様があの場で話してくださらなければ、きっとパーティーの参加者たちはミリウス様が私欲のために神具を盗んだと信じたことでしょう」

「そうですよ! 残念ながらその後の調査でもカミリア様がミリウス様に兄が病気だと偽って神具を盗むよう誘導させたのかをはっきりさせることはできませんでしたが、あの場にいた者はみんなカミリアを怪しんだはずです。それだけで十分です」

 従者たちは熱心に言う。私はその勢いに押されながら、「それはよかったわ」と言っておいた。

 この前すぐさま問題のシスターを連れてきたときも思ったけれど、この二人は従者としてだけでなく本心からミリウスを慕っているのだろう。

 その後、従者たちは私に何度も頭を下げながら去って行った。

 私はちょっと誇らしい気分になりながら、二人の後ろ姿を見送った。
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