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6.王宮への招待

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 一向に反応のない会場を青ざめた顔で見つめていたミリウスだったが、ジャレッド王子は彼に向かって追い打ちをかけるように言った。

「ミリウス、見苦しいぞ。そんな嘘まで吐いてカミリアを巻き込みたいのか?」

「嘘など吐いていません! 確かにカミリアは」

「そもそもあの神具に病人を治癒する力なんてない。あれは攻撃力や魔力を一時的に上げるものだ」

「……え?」

 ジャレッド王子が役人にうながすと、彼はミリウスが盗み出した神具の効力を説明し始める。

 あれは体内の魔力や筋力を上げることで、一時的に攻撃力を高めるものだと。神殿には治癒力を高める神具もあるにはあるが重病人を治すような力はなく、力の弱い神具はそもそも貸出を禁止してなどいないと。

「大体カミリアは聖女なのだぞ。治癒魔法が必要なら本人が行って治すさ」

「けれど、カミリアは……」

「往生際が悪いな。お前、最近剣術の腕が落ちたとこぼしていただろう? 来月の剣術大会で恥をかきたくなかったから神具の力を借りようとしたんじゃないか」

「兄上! 俺は……」

 ミリウスはまだ何か訴えようとジャレッド王子にすがりつくが、ジャレッド王子はそれを容赦なく払いのけた。

「衛兵、連れて行け。ミリウスにはしばらく反省させる必要がある」

 ジャレッド王子はそう冷たく言い放つ。ミリウスは衛兵に取り囲まれてもしばらく抵抗していたが、数人がかりで体を押さえつけられると諦めたように暴れるのを止めた。

 ミリウスにいつもついている従者二人は、泣きそうな顔でその様子を見ていた。


 ちょっと気の毒だな、なんて不覚にも同情してしまった。

 ミリウスは冤罪をかけられた私に同じようなことをしたので、同情してあげる義理はないのだけれど。でも、いわれのない罪で裁かれる気持ちが痛いほどわかる私には、ちょっとこの光景は胸に来た。

 ジャレッド王子もカミリアも、本当に残酷なことをする。

「あの、殿下」

 気がつくと私は、前に進み出てジャレッド王子に話しかけていた。

 私の存在に気づいたジャレッド王子は、まるで汚いものでも見るかのように蔑んだ目を向ける。

「あぁ、お前か。逃げずに会場に来たようだな」

「王族からの招待を断るわけにはいきませんから」

「今取り込み中なのはわかるだろう。口を挟まないでもらいたい」

「けれど、そのことについてお伝えしたいことがあって」

 私が言うと、ジャレッド王子は思いきり顔をしかめる。慌てた様子で私の後を追ってきたサイラスが「お嬢様」と心配そうに声を上げる。

「神具が盗まれたのは十日前と言いましたよね。私、ちょうどその日に執事のサイラスと神殿に行ったんです。そこでミリウス様を見かけました」

「あぁ、そうか。証言をどうも。やはりミリウスが犯人で間違いないようだな」

 ジャレッド王子はめんどくさそうにそう言って、私に背を向ける。

「お待ちください。私、その時、ミリウス様がカミリア様の世話係のシスターと話しているのを見たんです」

 ジャレッド王子がぴくりと肩を震わせこちらを振り返った。隣で笑みを浮かべていたカミリアの目にも、鋭い光が差す。
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