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6.王宮への招待
⑤
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「サイラス、私は大丈夫よ」
「お嬢様、けれど」
「ええと、グラシア様。殿下とカミリア様についてどう思っているか聞きたいのでしたっけ?」
私が尋ねると、グラシア様は「ええ、お答えくださる?」とくすくす笑いながら言った。
「私はお二人には幸せになって欲しいと思っていますわ。確かにカミリア様って私と違って変にプライドで凝り固まっているところがありませんから、殿下が心を許してしまうのもわかりますもの。殿下とも良好な関係を築けるのではないかと思います」
「あらまぁ」
笑顔で言ったら、グラシア様は目を見開いた。
「さすが公爵家のエヴェリーナ様。本音を隠すのがお上手でいらっしゃいますのね。でも本当はカミリア様に複雑な感情を持ってらっしゃるのでしょう?」
ちょっとしつこいなと思いながら彼女を見る。
悔しがっている素振りでも見せてあげたほうがいいのだろうか。それで引いてくれるなら、そう振る舞ってもいいけれど……。
そんなことを考えているうちに、グラシア様が続けて言う。
「それとも、今はそちらの男性がいるから元婚約者とその新しい婚約者のことなんてどうでもいいのかしら?」
グラシア様は扇で口を隠しながら、目をぎらりと光らせて言う。
私ははっとして、大きくうなずいた。
「ええ、そうなんですわ!」
「……は?」
「私が元気なのは、全部サイラスのおかげなんです。サイラスはずっと私の味方をしてくれて、いつだって私を励ましてくれて。私、サイラスがいればもうほかに何もいらないんです」
言っている間に一度目の人生のことを思い出してしまい、目にうっすら涙が滲んできた。
あんなに私を大切にしてくれていたサイラスを気に留めず、自暴自棄になったあげくに彼を死なせてしまった一度目の世界。
もう絶対に間違いたくない。
サイラスがちゃんとここにいることを確かめたくて手を握ったら、その温かさにまた涙が滲んだ。
つい力を込めて語り過ぎたのか、グラシア様たちはぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「……あぁ、そうですの。それはそれは……」
「なんというか、よかったですわね……?」
「ええと、お幸せに……」
なぜだかご令嬢たちの勢いが一気になくなり、さっきまでの高圧的な態度が嘘のように曖昧な言葉を並べている。
よくわからないけれど、応援してくれているのだろうか。嫌な人たちだと思ったけれど、意外と話せばわかる人たちなのかもしれない。
「ありがとうございます! 私、今回は絶対サイラスを幸せにしますわ!」
力を込めてそう宣言したら、グラシア様はちょっと戸惑った顔で、「が、がんばってくださいまし」と言って去って行った。つないだままだった手に力を込めてサイラスを見る。
「なんだかわかってくれたみたいね。ね、サイラス!」
「お嬢様」
見上げたサイラスは、片手で口を覆って顔を真っ赤にしていた。
「サイラス?」
「す、すみません。ちょっと今、こっちを見ないでください」
サイラスは慌てたように顔を逸らす。あんまり恥ずかしそうにするので、ちょっとストレートに言い過ぎちゃったかしらと私も落ち着かない気持ちになる。
そうしていたら、周りの視線がこちらに集中しているのに気づいた。
年若いご令嬢たちはキラキラした目で、ご令息たちは呆気に取られたような目で。一定以上の年齢の紳士淑女の方々は何とも微笑ましげにこちらを見ている。
「え、ええと……」
周りからの視線が落ち着かなくて、きょろきょろ辺りを見回す。すると気を取り直したらしいサイラスが、私の手を引いた。
「お嬢様、一旦外に出ましょう」
「え、ええ……」
手を引かれるまま、出口まで早足で進む。
後ろからご令嬢たちのきゃあきゃあ言う声が聞こえてきたのは気づかないふりをして、会場を後にした。
「お嬢様、けれど」
「ええと、グラシア様。殿下とカミリア様についてどう思っているか聞きたいのでしたっけ?」
私が尋ねると、グラシア様は「ええ、お答えくださる?」とくすくす笑いながら言った。
「私はお二人には幸せになって欲しいと思っていますわ。確かにカミリア様って私と違って変にプライドで凝り固まっているところがありませんから、殿下が心を許してしまうのもわかりますもの。殿下とも良好な関係を築けるのではないかと思います」
「あらまぁ」
笑顔で言ったら、グラシア様は目を見開いた。
「さすが公爵家のエヴェリーナ様。本音を隠すのがお上手でいらっしゃいますのね。でも本当はカミリア様に複雑な感情を持ってらっしゃるのでしょう?」
ちょっとしつこいなと思いながら彼女を見る。
悔しがっている素振りでも見せてあげたほうがいいのだろうか。それで引いてくれるなら、そう振る舞ってもいいけれど……。
そんなことを考えているうちに、グラシア様が続けて言う。
「それとも、今はそちらの男性がいるから元婚約者とその新しい婚約者のことなんてどうでもいいのかしら?」
グラシア様は扇で口を隠しながら、目をぎらりと光らせて言う。
私ははっとして、大きくうなずいた。
「ええ、そうなんですわ!」
「……は?」
「私が元気なのは、全部サイラスのおかげなんです。サイラスはずっと私の味方をしてくれて、いつだって私を励ましてくれて。私、サイラスがいればもうほかに何もいらないんです」
言っている間に一度目の人生のことを思い出してしまい、目にうっすら涙が滲んできた。
あんなに私を大切にしてくれていたサイラスを気に留めず、自暴自棄になったあげくに彼を死なせてしまった一度目の世界。
もう絶対に間違いたくない。
サイラスがちゃんとここにいることを確かめたくて手を握ったら、その温かさにまた涙が滲んだ。
つい力を込めて語り過ぎたのか、グラシア様たちはぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「……あぁ、そうですの。それはそれは……」
「なんというか、よかったですわね……?」
「ええと、お幸せに……」
なぜだかご令嬢たちの勢いが一気になくなり、さっきまでの高圧的な態度が嘘のように曖昧な言葉を並べている。
よくわからないけれど、応援してくれているのだろうか。嫌な人たちだと思ったけれど、意外と話せばわかる人たちなのかもしれない。
「ありがとうございます! 私、今回は絶対サイラスを幸せにしますわ!」
力を込めてそう宣言したら、グラシア様はちょっと戸惑った顔で、「が、がんばってくださいまし」と言って去って行った。つないだままだった手に力を込めてサイラスを見る。
「なんだかわかってくれたみたいね。ね、サイラス!」
「お嬢様」
見上げたサイラスは、片手で口を覆って顔を真っ赤にしていた。
「サイラス?」
「す、すみません。ちょっと今、こっちを見ないでください」
サイラスは慌てたように顔を逸らす。あんまり恥ずかしそうにするので、ちょっとストレートに言い過ぎちゃったかしらと私も落ち着かない気持ちになる。
そうしていたら、周りの視線がこちらに集中しているのに気づいた。
年若いご令嬢たちはキラキラした目で、ご令息たちは呆気に取られたような目で。一定以上の年齢の紳士淑女の方々は何とも微笑ましげにこちらを見ている。
「え、ええと……」
周りからの視線が落ち着かなくて、きょろきょろ辺りを見回す。すると気を取り直したらしいサイラスが、私の手を引いた。
「お嬢様、一旦外に出ましょう」
「え、ええ……」
手を引かれるまま、出口まで早足で進む。
後ろからご令嬢たちのきゃあきゃあ言う声が聞こえてきたのは気づかないふりをして、会場を後にした。
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