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6.王宮への招待

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「侍らせるってサイラスのことかしら。サイラスはうちの執事ですのよ」

「まぁ、執事? アメル公爵家のご令嬢は夜会に執事を連れて来て人目も憚らずべたべたするのね! 腕を絡ませて歩いたり、お菓子を食べさせあったりして。驚いてしまったわ」

 グラシア様はそう言うと大袈裟に驚いた顔を作ってみせる。何を失礼な、と反論しようと思い、さっきまでの行動を振り返る。

 サイラスの腕に腕を絡ませて引っ張って、手ずからチョコレートを食べさせて。確かにちょっと、慎みがないと言えるかもしれない。

 というか、私は以前似たようなことをしていたカミリアを思いきり蔑んでいた気がする。

 そんなことを考えてちょっぴり反省していると、サイラスが口を開く。

「お見苦しいところをお見せしてすみません。私が夜会に不慣れなもので、お嬢様に気を使わせてしまったのです。ご容赦ください」

 サイラスはご令嬢たちに向かって頭を下げると、控えめに私の肩を掴み、その場を離れようとする。多分、ここから逃がそうとしてくれているのだろう。


「お待ちになって」

 逃がさないとでも言うように、グラシア様がよく通る声で引き止める。無視するわけにもいかず、振り返った。

「なんでしょうか?」

「ねぇ、エヴェリーナ様。ジャレッド殿下とカミリア様とのことどう思ってらっしゃるの? 私たちはね、カミリア様のように慈悲深い方が殿下の婚約者になって喜ばしいって話していますのよ。誰かさんと違って、彼女は嫌味がないもの」

 グラシア様は意地悪な笑みを浮かべて、随分直球な悪口を言う。

 カミリアが慈悲深いというのには異論しかなかったし、そんなことを元婚約者の私に言ってくることないだろうとは思ったが、意外なほど彼女の言葉は響かなかった。

 前回の人生であれば間違いなく激昂したのだろうけれど、今は次の王と王妃になるあの二人がみんなに認められているのなら、それはいいことなのではないかと思える。

 私は今とっても幸せなので、私を陥れた人であろうと、楽しく生きればいいんじゃないかしらと考えられるのだ。


 ついでに言うと、嫌味を言ってくるグラシア様にもあまり怒りが湧いてこない。

 なんて言ったって私は、時間が巻き戻って死んでしまったはずのサイラスともう一度会えるという、最高のプレゼントをもらってしまったのだ。

 少々の嫌味を言われるくらい、幸運と不幸のバランスとしては全然釣り合っていないくらいだ。

 のん気にそんなことを思っていると、肩を掴んでいたサイラスの手に力が入るのがわかった。見上げると、サイラスがわなわなと肩を震わせている。

 そして耐えかねたようにグラシア様のほうを向き、口を開いた。


「グラシア様、エヴェリーナ様は殿下の元婚約者です。そのようなことをおっしゃるのは控えていただけませんか」

「まぁ、執事の分際で私に物申す気? アメル公爵家の使用人教育ってどうなっているの?」

 グラシア様が大げさに呆れ顔を作って言う。私は慌てて割って入った。
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