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5.リーシュの神殿
⑤
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幸せな気持ちで賑やかな通りを歩きながら、ふと空を見上げる。
そこには見惚れるほど綺麗な青空が広がっていた。
楽しそうな人々の声に、カラフルなお店の屋根。その上に広がる、何の憂いも感じさせない澄み渡った空。その光景を見ていたら、あまりの美しさに胸が締め付けられた。
どうしてだろう。なんてことのない、いつもと同じ空のはずなのに。どうしてこんなに綺麗に見えるのだろう。
「お嬢様? どうかなさいましたか?」
突然立ち止まった私を見て、サイラスは不思議そうな顔で言う。
そのとき思い出した。巻き戻り前の人生の牢屋の中で、青空が見たいと願ったことを。
そして願いが叶って再び青空を見られても、ちっとも心が動かなかったことを。
今、目に映る空は、一度目の人生で見た景色と大きく何かが変わるわけでもない。
なのに、今は心が震えるほど美しく感じる。理由は考えなくてもわかる。サイラスが隣にいるからだ。
「ごめんなさい、何でもないの。ただ空が綺麗だなって」
うっすら目に滲んだ涙を拭いながらそう答えた。
特に変わったところのない空を見て突然そんなことを言いだした私を見て、サイラスは笑うでもなく真面目な顔でうなずく。
「本当ですね。とても綺麗だ」
サイラスは静かな声で言った。その言葉が苦しくなるほど私の胸を震わせる。私は自分がやっと見たかった光景を見られたのだと気が付いた。
ついおかしなことを言ってしまったことを気恥ずかしく思いながらも、サイラスの手を引っ張って再び人混みの中をドレスショップ目指して歩く。
「ねぇ、サイラス。お店はあっちの方角で合って──……」
「あれ、エヴェリーナさん?」
お店を目指して歩いていたら、後ろから突然声をかけられた。振り向いてその人の顔を見た途端、一気に血の気が引くのがわかった。
プラチナブロンドの髪を横で一つに括った長身の男性。忘れようにも忘れられるわけがない。
「ル、ルディ様……?」
「こんなところで会うなんて奇遇だね、エヴェリーナさん」
ルディ様は人懐こい笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってきた。思わず逃げ出したくなるのをこらえ、何とか笑みを返す。
ルディ・クレスウェル。リスベリア王国の四代公爵家のうちの一つ、クレスウェル公爵家の長男。前回の人生で私を罠に嵌めた張本人だ。
ルディ様は裏なんて感じさせない明るい表情で、親しげに話しかけてくる。
「神殿に行ってきたの?」
「はい。ちょっと礼拝に……」
「僕もだよ。偶然だね。中で会えたら一緒に祭壇まで行けたのに残念だなぁ」
ルディ様は眉尻を下げて言う。
冗談じゃない。私はサイラスと礼拝に来たのだ。何が楽しくてルディ様と一緒に神殿を歩かなくてはならないんだ。
顔が引きつりそうになるのをこらえて何とか無難に別れようと口を開くと、ルディ様は突然こちらに近づいて耳打ちしてきた。嫌悪感にぞわりと体が震える。
「元気そうでよかった。よかったらこの後一緒にお店を回らない? 少し話したいことがあるんだ」
「は……」
見上げると、ルディ様は綺麗な笑みを浮かべて自信満々にこちらを見ていた。断られるなんてまるで予想していないような顔。
話したいこととは十中八九、カミリアの件だろう。前回の人生と同じように彼は私をそそのかして罪を犯させようとしているのだ。
そこには見惚れるほど綺麗な青空が広がっていた。
楽しそうな人々の声に、カラフルなお店の屋根。その上に広がる、何の憂いも感じさせない澄み渡った空。その光景を見ていたら、あまりの美しさに胸が締め付けられた。
どうしてだろう。なんてことのない、いつもと同じ空のはずなのに。どうしてこんなに綺麗に見えるのだろう。
「お嬢様? どうかなさいましたか?」
突然立ち止まった私を見て、サイラスは不思議そうな顔で言う。
そのとき思い出した。巻き戻り前の人生の牢屋の中で、青空が見たいと願ったことを。
そして願いが叶って再び青空を見られても、ちっとも心が動かなかったことを。
今、目に映る空は、一度目の人生で見た景色と大きく何かが変わるわけでもない。
なのに、今は心が震えるほど美しく感じる。理由は考えなくてもわかる。サイラスが隣にいるからだ。
「ごめんなさい、何でもないの。ただ空が綺麗だなって」
うっすら目に滲んだ涙を拭いながらそう答えた。
特に変わったところのない空を見て突然そんなことを言いだした私を見て、サイラスは笑うでもなく真面目な顔でうなずく。
「本当ですね。とても綺麗だ」
サイラスは静かな声で言った。その言葉が苦しくなるほど私の胸を震わせる。私は自分がやっと見たかった光景を見られたのだと気が付いた。
ついおかしなことを言ってしまったことを気恥ずかしく思いながらも、サイラスの手を引っ張って再び人混みの中をドレスショップ目指して歩く。
「ねぇ、サイラス。お店はあっちの方角で合って──……」
「あれ、エヴェリーナさん?」
お店を目指して歩いていたら、後ろから突然声をかけられた。振り向いてその人の顔を見た途端、一気に血の気が引くのがわかった。
プラチナブロンドの髪を横で一つに括った長身の男性。忘れようにも忘れられるわけがない。
「ル、ルディ様……?」
「こんなところで会うなんて奇遇だね、エヴェリーナさん」
ルディ様は人懐こい笑みを浮かべ、こちらに歩み寄ってきた。思わず逃げ出したくなるのをこらえ、何とか笑みを返す。
ルディ・クレスウェル。リスベリア王国の四代公爵家のうちの一つ、クレスウェル公爵家の長男。前回の人生で私を罠に嵌めた張本人だ。
ルディ様は裏なんて感じさせない明るい表情で、親しげに話しかけてくる。
「神殿に行ってきたの?」
「はい。ちょっと礼拝に……」
「僕もだよ。偶然だね。中で会えたら一緒に祭壇まで行けたのに残念だなぁ」
ルディ様は眉尻を下げて言う。
冗談じゃない。私はサイラスと礼拝に来たのだ。何が楽しくてルディ様と一緒に神殿を歩かなくてはならないんだ。
顔が引きつりそうになるのをこらえて何とか無難に別れようと口を開くと、ルディ様は突然こちらに近づいて耳打ちしてきた。嫌悪感にぞわりと体が震える。
「元気そうでよかった。よかったらこの後一緒にお店を回らない? 少し話したいことがあるんだ」
「は……」
見上げると、ルディ様は綺麗な笑みを浮かべて自信満々にこちらを見ていた。断られるなんてまるで予想していないような顔。
話したいこととは十中八九、カミリアの件だろう。前回の人生と同じように彼は私をそそのかして罪を犯させようとしているのだ。
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