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5.リーシュの神殿

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 廊下を機嫌よく歩いていたら、ふと前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 明るい金色の短い髪。シンプルだけれど、一目で上質だとわかる青いジャケット。できることなら出くわしたくない人物だった。ミリウス王子だ。

「サイラス、あれ……」

「どうしたんですか? ……あ」

「あれ、ミリウス様よね? せっかくジャレッド王子とカミリアがいない時を狙って来たのに」

 うんざりしながら言うと、サイラスは私以上に嫌そうな顔をしていた。

「嫌なものを見ましたね。お嬢様、こちらの道はやめて別の出口から出ましょうか」

「もう、サイラス。不敬罪になるわよ」

 心底嫌そうな顔でミリウスを見つめるサイラスを窘めながら、ミリウスの様子をうかがう。彼は黒いワンピースを着たシスターらしき少女と話していた。

「あれ……? サイラス、あの子に見覚えない?」

「あの方は確か、カミリア様のそばによくいる……」

「カミリアのお世話係みたいな子よね? 一体何をしているのかしら」

 ミリウスとシスターに見つからないようにそっと隠れながら二人の様子を観察する。

 あの子は確か、平民から聖女になったカミリアがお城や神殿で困らないようにと、世話係としてつけられたシスターだ。

 王宮に出入り禁止になる前は、彼女がカミリアのそばについて甲斐甲斐しく働いているところを何度も見かけた。

 ミリウスとシスターはこそこそ何かを話しながら、人の多い祭壇の間とは逆の方向へ進んでいく。


「一体何をしているのでしょう。あちらは関係者以外立ち入り禁止の通路のはずですが……」

「カミリアに何か頼まれたのかしら」

 不思議に思いながら眺めているうちに、ミリウスとシスターは通路の奥に消えてしまった。シスターはわかるとして、どうしてミリウスが関係者用の通路に。

 何となく気になってしばらく二人の消えていった方向を眺めていたが、後を追うわけにもいかなかった。

 教会でミリウスとシスターが一緒にいること自体は何の問題もないし、そもそもミリウスにもカミリアにも極力関わりたくないのだ。

「行っちゃったわね。サイラス、早く出ましょう」

「……そうですね」

 サイラスも二人の様子が気になるようで、しばらく二人の消えた方向を眺めていたが、私が声をかけるとうなずいた。

 なんだか引っかりの取れないまま、神殿を後にした。

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