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4.一度目の世界

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 しかし、青空を見られる日は本当にやって来た。

 真犯人が見つかったと釈放され、家に帰されたからだ。……サイラスが、自分が本当の犯人だと名乗り出たから。

 馬鹿な私は数ヶ月もそれを知らずに過ごした。

 体が弱っていてベッドから起き上がれなかったし、世話をしに来る使用人はみな腫れ物扱いで、必要以上のことは何も話さなかったというのもあるけれど、それにしたって私はもう少し物事に関心を持つべきだったと思う。

 唯一侍女のマリエッタだけは何か言いたそうに私を見ていたけれど、結局そのまま口を噤んでしまった。


 私はベッドの上で、せっかくお屋敷に戻ってきたのにサイラスは来てくれないな、なんてのん気に思いながら過ごしていた。

 体が良くなったら、今度は自分から会いに行こうとひそかに心に決めた。サイラスは牢獄にまで何度も来てくれたのだから、今度は私がお礼を言いに行くべきだ。

 何もかも信じられなくなっていた私だけれど、サイラスだけは会いに行ったら喜んでくれるだろうと疑いもなく思えた。


 しかし、そんな悠長なことを考えている暇なんてなかったのだ。

 サイラスが私の代わりに投獄されていると知ったとき、そして急いで牢獄に行っても刑は覆せないと追い返されたとき、私は絶望というのがどんなものなのか知った。

 ジャレッド王子に捨てられたことなんて、社交界から爪はじきにされたことなんて、そんなこと絶望でもなんでもなかったのだ。

 サイラスは最後に面会に来てくれたあの日、すでに私の代わりに自分が犯人だと名乗り出ることを決めていたのだろう。

 だからあの日の彼は、何かを決意したような、どこか晴れやかな表情をしていたのだ。

 どこまでも続く青空を再び見ることはできたけれど、絶望に満ちた気持ちで見る空は何の美しさも感じられなかった。こんなことを望んでいたわけではなかったのにと胸がズキズキ痛むだけ。

 空だけではない。日常の全てがくすんで見え、何を見ても感情が動かなくなった。牢屋に入れられていたときのほうがまだ感情が動いていたくらいだ。


 苦しくて、辛くて、何の希望もない日々。

 誰かが部屋をノックするたび、扉を開けたらサイラスがいるのではないかなんて、馬鹿げた期待が頭をかすめる。

 ほんの数ヶ月前までは、呼ばなくたって本物のサイラスが何度も会いに来てくれたのに。それを素っ気なく追い返すだけだった自分の愚かさに嫌気が差す。

 切実な願いが叶うことはもちろんなくて、扉を開けた先にはいつもすっかりよそよそしくなったメイドや侍女がいるだけだった。

 苦しい。息苦しくて眩暈がする。

 もう私の周りを囲う壁はないのに、世界はどんどん閉じていく。

「サイラス、会いたい……。会いたいの。戻ってきて……」

 かすれた声で今さらな言葉を呟いた。言葉は誰にも届くことなく、ただ消えていくだけだった。
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