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4.一度目の世界

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 翌週になるとサイラスはまたやって来た。前回の別れ際と違い、その顔はどこか晴れやかに見える。

「……また来たの? 何も毎週来なくてもいいのに」

 本当は来るのをやめて欲しくはないのに、つい素っ気なく言ってしまう。散々見捨てられ裏切られてきた私は、すっかり人を信用するのが下手になっていた。

 それなのにサイラスは優しい顔でこちらを見る。

「すみません。お嬢様にお話ししたいことがたくさんあるので、週に一度では足りないくらいなんです。今日は特に聞いて欲しい話があって」

「そう? それなら聞いてあげてもいいけど」

 サイラスは私の言葉にうなずくと、後ろにいる見張りを横目で見遣る。

 それからそっとこちらに顔を近づけた。仕切りがあるので距離があるが、ぎりぎりまで近づくと、彼は小声で言った。

「お嬢様、ルディ・クレスウェルのことですが」

「え?」

 突然出て来た名前に驚く。なぜ今ルディ様の名前が出てくるのだろう。

「彼には気をつけてください。あの方がまた接触しようとしてきても、もう決して会ってはいけませんよ。それから──……」

「おい、会話はこちらに聞こえるように話せ」

 後ろから見張りの声が飛んでくる。サイラスはそちらを向いて謝ると、再び私のほうを見て言った。

「わかりましたか?」

「え、ええ……」

 どうしてサイラスがそれを、そう聞きたいが、見張りに監視されているので躊躇われる。


「お嬢様、前にまた青空が見たいと言いましたね」

「言ったけれど……」

「きっと見れますよ。楽しみにしていてください」

 サイラスはそう言うと、柔らかく笑った。

「そんなはずないじゃない。気休めはやめてよ」

「気休めではないのですが……。その日が来るまで待っていてください」

 私が抗議すると、サイラスは困ったような顔でそう言った。

 私は処刑が決まっているのだ。そんな日が来るはずないではないか。不満げにサイラスを見るが、サイラスはただ笑うだけだった。
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