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4.一度目の世界
⑦
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投獄から数ヶ月が経っても、サイラスは面会に来るのをやめなかった。
「お嬢様、お元気でしたか? 暮らしに問題はないでしょうか」
「特に問題はないわ。快適な生活とは言えないけれど、どうせ長くてもあと数ヶ月の辛抱だし」
淡々とそう言えば、サイラスは表情を曇らせる。数ヶ月すれば釈放してもらえるわけではない。刑は既に決まっている。
一ヶ月ほど前、私への判決が言い渡された。判決は死罪。死をもって聖女を殺めようとした罪を償えということだった。
私はもうここから出られない。牢屋を出られるのは、処刑されるその日なのだ。
「お嬢様は処刑されるようなことはしていません。そもそも、あちらが最初にお嬢様に無実の罪を着せたのではないですか」
サイラスは悲痛な声で言う。後ろで見張っている兵士が、こちらをじろりと睨むのが見えた。
「国の大事な聖女の暗殺未遂なんて、処刑されても仕方ない罪だわ」
「暗殺未遂と言ったって……! カミリア様はただ腕を怪我しただけではないですか。命をもって償わなければならないほどの罪だとは思えません」
サイラスは真剣な顔で言う。結果的に腕に軽傷で済んだだけで、結構な罪だと思うけれど。私を思いやってそう言ってくれているのだろう。
「いいのよ、もう判決を受け入れているから」
「しかし……」
「ただ牢屋の中にいると時々青空が恋しくなるのよね。外にいるときは何とも思ってなかったのに。もう見られないと思うと、やけに明るい空が見たくなるの」
思わず溜め込んでいた本音が漏れる。
牢屋の中は暗くて、狭くて、長く過ごすほど外の世界が恋しくなった。もう出られないとわかっているから余計にそう感じる。それを聞いたサイラスの顔がいっそう悲しげに歪んだ。
こういうことはあまり言わない方がよかったのかもしれない。
少しでも惨めにならないように感情を押し殺してきたのに。幼い頃からそばにいたサイラスが目の前にいるからか、つい気が緩んでしまった。
「……冗談よ」
そう言ってもサイラスが表情を和らげることはない。
黙り込んでしまった後に消え入りそうな声で、「また来ますね」と言って去って行った。これから先死ぬだけの人間に会いにくることなんてないのに。
「お嬢様、お元気でしたか? 暮らしに問題はないでしょうか」
「特に問題はないわ。快適な生活とは言えないけれど、どうせ長くてもあと数ヶ月の辛抱だし」
淡々とそう言えば、サイラスは表情を曇らせる。数ヶ月すれば釈放してもらえるわけではない。刑は既に決まっている。
一ヶ月ほど前、私への判決が言い渡された。判決は死罪。死をもって聖女を殺めようとした罪を償えということだった。
私はもうここから出られない。牢屋を出られるのは、処刑されるその日なのだ。
「お嬢様は処刑されるようなことはしていません。そもそも、あちらが最初にお嬢様に無実の罪を着せたのではないですか」
サイラスは悲痛な声で言う。後ろで見張っている兵士が、こちらをじろりと睨むのが見えた。
「国の大事な聖女の暗殺未遂なんて、処刑されても仕方ない罪だわ」
「暗殺未遂と言ったって……! カミリア様はただ腕を怪我しただけではないですか。命をもって償わなければならないほどの罪だとは思えません」
サイラスは真剣な顔で言う。結果的に腕に軽傷で済んだだけで、結構な罪だと思うけれど。私を思いやってそう言ってくれているのだろう。
「いいのよ、もう判決を受け入れているから」
「しかし……」
「ただ牢屋の中にいると時々青空が恋しくなるのよね。外にいるときは何とも思ってなかったのに。もう見られないと思うと、やけに明るい空が見たくなるの」
思わず溜め込んでいた本音が漏れる。
牢屋の中は暗くて、狭くて、長く過ごすほど外の世界が恋しくなった。もう出られないとわかっているから余計にそう感じる。それを聞いたサイラスの顔がいっそう悲しげに歪んだ。
こういうことはあまり言わない方がよかったのかもしれない。
少しでも惨めにならないように感情を押し殺してきたのに。幼い頃からそばにいたサイラスが目の前にいるからか、つい気が緩んでしまった。
「……冗談よ」
そう言ってもサイラスが表情を和らげることはない。
黙り込んでしまった後に消え入りそうな声で、「また来ますね」と言って去って行った。これから先死ぬだけの人間に会いにくることなんてないのに。
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