上 下
21 / 87
4.一度目の世界

しおりを挟む
「そんなことしなくてもいいわよ」

「諦めないでください。お嬢様は何もしていないのでしょう? いつか真実が明らかになりますから」

「真実もなにも、カミリアの暗殺を依頼したのは本当だもの。自業自得で捕まっただけだわ」

 そう言うと、今度はサイラスのほうが驚いた顔をした。目をぱちくりして、理解できないというようにこちらを見ている。

「私のこと信じてくれていたのね。でも、ごめんなさい。私、あなたが思っているよりずっとあさましい人間なの」

 サイラスは何も言葉を発しない。これだけはっきり言っても、まだ私の罪を信じきってはいない様子だ。どうしてそんなに私を信用するのだろうと不思議になる。

 けれど、やはり理解したら呆れたのだろう。いつも面会時間いっぱいまでいるサイラスは、その日は早めに部屋を後にした。

 もう彼が来ることもないだろうなと思った。きっとそのほうがいいのだろう。

 投獄された元お嬢様のところになんて頻繁にやって来たら、サイラスまで悪い噂を立てられるかもしれない。これでよかったのだ。


 しかし、呆れて面会に来なくなると思ったサイラスは、次の面会日にも時間通りやって来た。

「お嬢様、お久しぶりです。体調はいかがですか?」

「どうして……、もう来ないと思ったのに」

 そう言うと、サイラスは寂しげな顔をする。

「やはりご迷惑でしょうか? 毎週お時間を使わせてしまって申し訳ありません」

「私は閉じ込められているだけだから時間を使うも何もないけど、あなたはもっとほかにすることがあるでしょう?」

 困惑しながら尋ねると、サイラスは首を横に振る。

「以前も言いましたが、私が来たくて来ているのです。お嬢様が迷惑だと言うのならば控えますが……」

 サイラスはそう言いかけ、言葉を止める。そしてかすれた声で言った。

「いいえ、お嬢様が迷惑だと言っても、私があなたに会いたいのです。どうかここに来ることをお許しください」

 サイラスの目は真剣だった。私は言葉を返せなくなる。

 私が犯人だと言っているのに。私はもう幼い頃のように無邪気で純粋な子ではないのに。

 誰からも見捨てられた私に、なぜそんな言葉をかけてくれるのだろう。

「……迷惑ではないわ。サイラスの好きにしてちょうだい」

「……! ありがとうございます、お嬢様……!」

 素っ気なく言ったのにサイラスは嬉しそうな顔をする。私にはサイラスがそんな反応する意味がわからなかった。

 けれど心のどこかでは安心していた。

 心の底では、私の醜い部分を知られてサイラスにまで見捨てられるのが怖かったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

後悔だけでしたらどうぞご自由に

風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。 それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。 本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。 悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ? 帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。 ※R15は保険です。 ※小説家になろうさんでも公開しています。 ※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

『欠落令嬢は愛を知る』~妹に王妃の座も人生も奪われましたが、やり直しで女嫌いの騎士様に何故か溺愛されました~

ぽんぽこ狸
恋愛
 デビュタントを一年後に控えた王太子の婚約者であるフィーネは、自分の立場を疑ったことなど今まで一度もなかった。王太子であるハンスとの仲が良好でなくとも、王妃になるその日の為に研鑽を積んでいた。  しかしある夜、亡き母に思いをはせていると、突然、やり直す前の記憶が目覚める。  異母兄弟であるベティーナに王妃の座を奪われ、そして魔力の多い子をなすために幽閉される日々、重なるストレスに耐えられずに緩やかな死を迎えた前の自身の記憶。    そんな記憶に戸惑う暇もなく、前の出来事を知っているというカミルと名乗る少年に背中を押されて、物語はやり直しに向けて進みだす。    

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...