19 / 87
4.一度目の世界
④
しおりを挟む
そんなときに接近してきたのが、クレスウェル公爵家のルディ様だった。
ルディ様は上の兄クリストファーの友人だ。そのため以前から面識はあったが、特に深い交流があったわけではない。
それなのにルディ様は、急に「君が沈んでいると聞いて心配になったんだ」なんて言ってアメル家に何度もやってくるようになった。時には気晴らしにと外出にも誘われた。
はじめのうちはそれがうっとうしくてならなかった。
しかし、ルディ様はこちらの感情に合わせるのがうまく、私のジャレッド王子やカミリアに対する悪感情を全て肯定してくれた。
とても表には出せないような醜い感情を、そんな風に思うのは当然だと受け入れてもらってから、私はじょじょにルディ様を信頼するようになっていった。
ある日私は、「カミリアを消せたらいいのに」とつい呟いてしまった。
対象がジャレッド王子ではなくカミリアなのは、愚かにもまだカミリアさえいなくなればジャレッド王子はこちらを見てくれるのではないかという思いが残っていたからだ。
そんな私にルディ様は真剣な顔でうなずいて、それなら人を紹介してあげようと言った。
「エヴェリーナさんの気持ちはよくわかるよ。二人に復讐してやろう。君にはその権利がある」
復讐という言葉は追い詰められていた私の心に甘く響いた。
カミリアが血を流して傷つくのを見たら、彼女がこの世から消えて苦しむ王子の姿を見たら、この沈みきった心も晴れる気がする。
しかし、そこで彼の言葉にうなずいてしまったのが、最大の過ちだったのだ。
ルディ様に暗殺者の名前を紹介された私は、彼の言うままに変装して寂れた町にひっそり佇む小屋を訪れた。出てきた男に小屋に招き入れられ、カミリアを殺してくれるよう依頼する。
しかし、計画は笑ってしまうほどあっさり失敗して、捕まった実行犯はすぐさま私に依頼されたのだと白状した。
私が暗殺に関わった証拠は次々と出てきた。
実行犯の男に会いに行った日の目撃情報や、やり取りの手紙など、都合がいいくらい簡単に証拠が増えていく。一方、ルディ様が暗殺者の紹介に関わったという情報は一つも出てこなかった。
恨みに惑わされてすっかり頭の鈍っていた私にも、彼の罠だったということは察せられた。けれど、今さら気づいたところでどうにもならない。
証拠は十分で、何より私にはカミリアに危害を加える動機がある。
公爵家に押し入ってきた兵士に捕らえられ、私はあっけなく投獄された。嫉妬にまみれた女が考えなしに甘い言葉に飛びついてその報いを受けただけの、自業自得の結末だった。
ルディ様は上の兄クリストファーの友人だ。そのため以前から面識はあったが、特に深い交流があったわけではない。
それなのにルディ様は、急に「君が沈んでいると聞いて心配になったんだ」なんて言ってアメル家に何度もやってくるようになった。時には気晴らしにと外出にも誘われた。
はじめのうちはそれがうっとうしくてならなかった。
しかし、ルディ様はこちらの感情に合わせるのがうまく、私のジャレッド王子やカミリアに対する悪感情を全て肯定してくれた。
とても表には出せないような醜い感情を、そんな風に思うのは当然だと受け入れてもらってから、私はじょじょにルディ様を信頼するようになっていった。
ある日私は、「カミリアを消せたらいいのに」とつい呟いてしまった。
対象がジャレッド王子ではなくカミリアなのは、愚かにもまだカミリアさえいなくなればジャレッド王子はこちらを見てくれるのではないかという思いが残っていたからだ。
そんな私にルディ様は真剣な顔でうなずいて、それなら人を紹介してあげようと言った。
「エヴェリーナさんの気持ちはよくわかるよ。二人に復讐してやろう。君にはその権利がある」
復讐という言葉は追い詰められていた私の心に甘く響いた。
カミリアが血を流して傷つくのを見たら、彼女がこの世から消えて苦しむ王子の姿を見たら、この沈みきった心も晴れる気がする。
しかし、そこで彼の言葉にうなずいてしまったのが、最大の過ちだったのだ。
ルディ様に暗殺者の名前を紹介された私は、彼の言うままに変装して寂れた町にひっそり佇む小屋を訪れた。出てきた男に小屋に招き入れられ、カミリアを殺してくれるよう依頼する。
しかし、計画は笑ってしまうほどあっさり失敗して、捕まった実行犯はすぐさま私に依頼されたのだと白状した。
私が暗殺に関わった証拠は次々と出てきた。
実行犯の男に会いに行った日の目撃情報や、やり取りの手紙など、都合がいいくらい簡単に証拠が増えていく。一方、ルディ様が暗殺者の紹介に関わったという情報は一つも出てこなかった。
恨みに惑わされてすっかり頭の鈍っていた私にも、彼の罠だったということは察せられた。けれど、今さら気づいたところでどうにもならない。
証拠は十分で、何より私にはカミリアに危害を加える動機がある。
公爵家に押し入ってきた兵士に捕らえられ、私はあっけなく投獄された。嫉妬にまみれた女が考えなしに甘い言葉に飛びついてその報いを受けただけの、自業自得の結末だった。
80
お気に入りに追加
2,293
あなたにおすすめの小説
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる