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間話.苛立ち ジャレッド視点
①
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ちょっと王子サイドの話です!
────
エヴェリーナに婚約破棄を告げてから、数週間が経った。
俺は昔からエヴェリーナが苦手だ。
初めて会ったときは本人がどうというわけではなかったが、大人に決められた婚約者というのが利用されているようで腹立たしく、気に入らなかった。
次第にエヴェリーナ本人にも不満が募っていった。俺に好かれていないのを察しているのか、あの女はいつも必死にこちらの機嫌をうかがってくるのだ。
好きでもない女に縋られるなんて、いまいましくてならない。
「ジャレッド様にふさわしくなりたくて」なんて言いながら、必死で教養やマナーの勉強をしているのも、うっとうしいとしか思えなかった。
それでも政略を無視して結婚を拒むのが得策ではないことくらい理解していたので、内心では面倒に思いながらも時々は社交辞令で褒めてやったり、外出に誘ってやったりしていた。
気乗りしないながらもエヴェリーナと結婚する未来を受け入れてはいた。
しかし、王宮に突然カミリアが現れたあの日から、俺はどうしても自分の運命が受け入れられなくなった。
自由奔放で飾らないカミリアは、見ているだけで癒される。どうせ結婚するのなら、堅苦しいエヴェリーナよりも愛らしいカミリアの方がいいのではないか。
エヴェリーナとの婚約を破棄できないかという考えが頭から離れなくなった。
それでもまだ迷いはあったが、カミリアからエヴェリーナにひどい嫌がらせを受けたと訴えかけらたとき、心が決まった。
心優しい聖女に嫌がらせをする女など、次期王妃にふさわしくない。そうだ、これは国のため。俺個人の願望のための決断ではないのだ。
だから俺は、王宮で行われた俺の十九歳を祝うパーティーで、エヴェリーナに婚約は破棄するとはっきり告げてやった。
あの女から解放されたらどれだけすっきりするだろうと思っていた。なのに、婚約を辞めてからむしろ苛々することが増えた気がする。
そもそも、婚約破棄した時の反応からしておかしかったのだ。
きっと嫌だと泣いて縋ってくると思っていたのに、実際のエヴェリーナは笑顔で婚約破棄を承諾すると、こちらを振り返ることすらなく一目散に会場を出て行った。
いつもこちらの機嫌をうかがって、俺の態度に一喜一憂していたあのエヴェリーナがだ。
泣いて縋られたら面倒だと思ってはいたが、あっさり納得されるとそれはそれで納得がいかない。
あいつがごねる事を想定して、わざわざ現国王である父上が国境付近で起こった小競り合いを収めるために王都を留守にしているこの時期を狙ったのに。
現在、国王の代わりに王宮を取りまとめているのは、俺に甘い母上と母上の息のかかった宰相だ。なので多少強引に物事を推し進めても通ると思っていた。
母上は俺と同様、礼儀正しいばかりでおもしろみのないエヴェリーナよりも、愛嬌があって可愛らしいカミリアを気に入っている。
しかし、そんな想定は全く意味をなさないほど、エヴェリーナはあれから何の反応も示してこなかった。
「ジャレッド様、私納得がいきませんわ。私をあんなに苦しめた方が平然としているなんて……!」
カミリアも同じことを考えていたのか、俺の部屋にやって来て涙目で訴えてくる。
「ああ、確かにあいつの反応は変だ」
「私、エヴェリーナ様にはもっとちゃんと反省して欲しいですわ。ちゃんと苦しんで、私の気持ちをわかって欲しいです!」
カミリアは悔しそうに言う。
心優しい聖女であるカミリアがそんなことを言うなんて、少々意外だった。しかし、それだけエヴェリーナから受けた嫌がらせの傷が深いということなのだろうとすぐに思い直す。
「……そうだな。あの女にはもっと反省してもらわなければならない。何か方法を考えないとな」
そう言ったら、カミリアの顔がぱっと明るくなった。
確かにカミリアの言う通りだ。あの女が元気でいるのはおかしい。王太子である俺に婚約破棄されたのだから、もっと傷ついた顔をしているべきだ。
しっかり反省するよう、もっと苦しめてやらなければならない。
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エヴェリーナに婚約破棄を告げてから、数週間が経った。
俺は昔からエヴェリーナが苦手だ。
初めて会ったときは本人がどうというわけではなかったが、大人に決められた婚約者というのが利用されているようで腹立たしく、気に入らなかった。
次第にエヴェリーナ本人にも不満が募っていった。俺に好かれていないのを察しているのか、あの女はいつも必死にこちらの機嫌をうかがってくるのだ。
好きでもない女に縋られるなんて、いまいましくてならない。
「ジャレッド様にふさわしくなりたくて」なんて言いながら、必死で教養やマナーの勉強をしているのも、うっとうしいとしか思えなかった。
それでも政略を無視して結婚を拒むのが得策ではないことくらい理解していたので、内心では面倒に思いながらも時々は社交辞令で褒めてやったり、外出に誘ってやったりしていた。
気乗りしないながらもエヴェリーナと結婚する未来を受け入れてはいた。
しかし、王宮に突然カミリアが現れたあの日から、俺はどうしても自分の運命が受け入れられなくなった。
自由奔放で飾らないカミリアは、見ているだけで癒される。どうせ結婚するのなら、堅苦しいエヴェリーナよりも愛らしいカミリアの方がいいのではないか。
エヴェリーナとの婚約を破棄できないかという考えが頭から離れなくなった。
それでもまだ迷いはあったが、カミリアからエヴェリーナにひどい嫌がらせを受けたと訴えかけらたとき、心が決まった。
心優しい聖女に嫌がらせをする女など、次期王妃にふさわしくない。そうだ、これは国のため。俺個人の願望のための決断ではないのだ。
だから俺は、王宮で行われた俺の十九歳を祝うパーティーで、エヴェリーナに婚約は破棄するとはっきり告げてやった。
あの女から解放されたらどれだけすっきりするだろうと思っていた。なのに、婚約を辞めてからむしろ苛々することが増えた気がする。
そもそも、婚約破棄した時の反応からしておかしかったのだ。
きっと嫌だと泣いて縋ってくると思っていたのに、実際のエヴェリーナは笑顔で婚約破棄を承諾すると、こちらを振り返ることすらなく一目散に会場を出て行った。
いつもこちらの機嫌をうかがって、俺の態度に一喜一憂していたあのエヴェリーナがだ。
泣いて縋られたら面倒だと思ってはいたが、あっさり納得されるとそれはそれで納得がいかない。
あいつがごねる事を想定して、わざわざ現国王である父上が国境付近で起こった小競り合いを収めるために王都を留守にしているこの時期を狙ったのに。
現在、国王の代わりに王宮を取りまとめているのは、俺に甘い母上と母上の息のかかった宰相だ。なので多少強引に物事を推し進めても通ると思っていた。
母上は俺と同様、礼儀正しいばかりでおもしろみのないエヴェリーナよりも、愛嬌があって可愛らしいカミリアを気に入っている。
しかし、そんな想定は全く意味をなさないほど、エヴェリーナはあれから何の反応も示してこなかった。
「ジャレッド様、私納得がいきませんわ。私をあんなに苦しめた方が平然としているなんて……!」
カミリアも同じことを考えていたのか、俺の部屋にやって来て涙目で訴えてくる。
「ああ、確かにあいつの反応は変だ」
「私、エヴェリーナ様にはもっとちゃんと反省して欲しいですわ。ちゃんと苦しんで、私の気持ちをわかって欲しいです!」
カミリアは悔しそうに言う。
心優しい聖女であるカミリアがそんなことを言うなんて、少々意外だった。しかし、それだけエヴェリーナから受けた嫌がらせの傷が深いということなのだろうとすぐに思い直す。
「……そうだな。あの女にはもっと反省してもらわなければならない。何か方法を考えないとな」
そう言ったら、カミリアの顔がぱっと明るくなった。
確かにカミリアの言う通りだ。あの女が元気でいるのはおかしい。王太子である俺に婚約破棄されたのだから、もっと傷ついた顔をしているべきだ。
しっかり反省するよう、もっと苦しめてやらなければならない。
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