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2.恩返し

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 その後、私たちはひたすらお店を見て回った。

 男性向けの洋服店や雑貨店を見かけ、入ろうと勧めると、サイラスは一応お店に入ってはくれるものの欲しい物も言わずに短時間で出ようとする。

 そうして私の好きそうなお店ばかり探して誘導した。

「もー、私の買い物に来たんじゃないって言ってるじゃない」

「すみません。つい」

 サイラスは謝りつつも、やっぱり自分向けの店には目を向けようとしない。

 その上、サイラスの腕には大量の荷物が抱えられていた。どれも私に買ってくれたものばかりだ。

 せめて荷物くらい自分で持つと言っても渡してくれないので、これではちっとも恩返しになってないではないかと不満だった。

 今日のサイラスは執事として同行しているわけではないのに。


「お嬢様、ありがとうございます。今日は人生で一番いい日です」

 それなのにサイラスは腕いっぱいの荷物を持ちながら幸せそうにしている。

「こんなのが楽しいの?」

「はい。ずっとお嬢様とジャレッド王子が一緒に出かけるのを見てうらやましかったんです。お嬢様のおかげで夢が叶いました」

 あんまり嬉しそうに言うので、それならいいのかなぁなんて思ってしまう。

 それにしても、サイラスはそんなに私と一緒にお出かけしたかったなんて。なんだか可愛い。前回の人生でも街歩きくらい付き合ってあげればよかった。

「お出かけくらいいつでも付き合ってあげるわ」

「え…っ、いいんですか!? ……あ、いや、お嬢様に何度も時間を使ってもらうわけにはいきませんから!」

 サイラスは目を見開いて嬉しそうな声を上げた後、慌てたように首をぶんぶん横に振っていた。遠慮しなくてもいいのに。


「ねぇ、あれもしかして……」

「アメル公爵家のエヴェリーナ様じゃない。どうして平民みたいな服を着てこんな街中で」

「一緒にいる男性は誰かしら。貴族には見えないけれど」

 ふと、後ろから声が聞こえてきた。

 振り返ると、ドレスを着て日傘を差したご令嬢たちがこちらを見てひそひそ話している。そばには馬車が停まっていた。

 どこかの貴族のご令嬢たちが街に出向いてきたのだろう。私の視線が向くと彼女たちは一斉に目を逸らす。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「いいえ、何でもないの」

 私は笑顔で言う。サイラスの耳には届かなかったようだし、つまらない話を聞かせることはない。促されるまま店の扉をくぐる。

「エヴェリーナ様、ジャレッド殿下に婚約破棄されて気が変になったんじゃないかしら」

 後ろから、吐き捨てるようにそんな言葉が聞こえた。私は振り返らないまま、お店に足を踏み入れた。
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