とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ

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掃除

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 いくつあるのか分からない部屋に、どこまでも続く廊下。百合は早々に諦めて、近くを歩いている使用人に聞いた。


「朝食場所はどこかしら?」

「…」


無視…ですか?そう、ですか。今の私は空腹でかなり苛立っているっていうのに。


「聞いている?そこの女!!!
…さっさと案内、してくれるかしら?」


情緒不安定みたいに、なった。
けれど、まあこの身体はお貴族様みたいだし、少しは丁寧な言葉づかいを意識しなきゃでしょ?

百合は、自分自身をそう、納得させた。
もちろん足は動いている。先程の使用人の女は、一度は無視をしたくせに強く言われると弱いのか、蒼褪めた顔で先を歩いている。

最初からそうすれば、いいのに…。
百合は思ったが、ここの使用人たちのあまりに失礼な態度がなぜか許されているほどに、女主人の立場が弱く、クルーガーとかいう夫からも軽視されているということがよく分かった。


─いつまで、この身体で生きるのか分からないけれど…このままには、しておけないわ。


朝食会場に着き、腰を下ろすと逃げるように使用人は去っていった。

...ちゃんと料理は運ばれてくるんでしょうね?もしこなかったらどうしてやろうか…
などと考えていると広間の扉が開いた。

給仕する男だろうか?恭しく入室し、百合の前に食事を置いていく。トマトとレタスのサラダにスープ。三日月状のオムレツも美味しそうだ。元いた場所と食材は変わらないと分かりほっと一息。

百合は早速口をつけた。スープを一口。


「……」


給仕の男はにこにこと側に控えている。表面上の態度がいい分、余計言いにくい…なんてことはない。


「まずいわ」


静かな空間に、その声はよく響いた。


「え?」


男が不思議そうに繰り返す。


「だからまずいわ、と言ったの」

「そんなはず…。何かの間違いではないでしょうか奥様?最高の料理人が調理しておりますので。もしやご体調が優れないとか?」

「…ふふ。随分と舌の悪い料理人もいたことね。ここに呼んで」

「…奥様。やはり身体の具合が…」

「しつこいわね…。その笑顔、とっても胡散臭いわよ。私の体調のせいにしたいみたいだけれど、に料理人を呼ぶことに何か不都合でもあって?」

ずっとにこやかな表情だった男から初めて笑顔が消える。彼は一礼して去っていった。

しばらくして、恰幅のいい白い服の男が入ってきた。


「奥様、何か問題でもごさいましたでしょうか?」

「ええ。問題大ありよ。このスープ控え目に言って、酷い出来だわ」

「そんなはず」

「よろしければ召し上がって。私が口をつけたものでもよければ」

「…失礼します」

男がスープに口をつけ、瞬時に顔を歪めた。


「これはひどい」

「そうでしょう?」

「私がつくったものに何か細工がされています。泥のような…こんなもの料理ではない!料理人として、どのような方にでも皆等しく自信を持って、料理をお出ししている身からすれば、これはあまりに酷い仕打ちです」

「…この料理に手を加えられた者は?」

百合は静かな声で言った。


「奥様の料理ですので、私とそこにいる彼─イネスだけかと」

「と、言っているけど、イネス…
何か反論はあって?」

「料理人が嘘をついているのです…!奥様は信じてくださるでしょう?私は誠心誠意奥様にお仕えしております。泥を入れたなどと、そんな、あまりにも惨い。…そんなことできるはずもありません」


すらすらと動く口だな。百合は思った。
料理人は嘘をついていない。プライドを持って仕事をしていると伝わってきたからだ。
かと言って証拠があるかと言われれば無いと
言う他ない。


「イネス…あなたはよくやってくれているわ」

「!でしたら、奥様…」

「話は最後まで聞くものよ?でも、この状況で信用するというのも無理な話よね?
あなたの潔白が証明されるまで、私に近づかないで。…ああもちろん、私もきちんと調査するから安心して」

「ですが、奥様…」

「下がってよくってよ」


何やら言っていたが、話を聞かず追い出した。調査するとは言ったが、味方がいるのかも定かではない。こんな状況下で百合にできることなど、日記を読むことだけだ。

料理人が新たにつくり直した料理に舌鼓を打ちながら、百合は考える。

料理人ですら、ここの女主人に含みがあるようだった。誰にでも皆等しく…などと。
あの場では言わなかったが、この屋敷の使用人皆が女主人を侮っているのはまず間違いない。


─快適に過ごすためには掃除が必要よね

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