2 / 2
始まり
しおりを挟む
皆様は悪役令嬢という存在をご存知だろうか?
私がソリスとして生きる今の世には存在しない言葉。
ただ夢でその存在について知り私は思ったのだ。
─悪役と呼ばれるだけあって、皆総じてキツイ顔立ちの美形、家柄も良い。加えて能力も高いのにコミュ力低い人多くない?
コミュニケーション能力。それは他者との摩擦をできる限り減らし、生きやすいよう振る舞う能力だと思う。
彼らのようにただでさえ嫉妬されやすい人間が、それを捌く方法も身につけず適齢期になり待っているのは…身の破滅だ。
サイコパスだったり武力があったりする令嬢ならなんとかなるかもしれないが、親の愛を知らず不器用に、高慢に育ってしまった彼女らを導きたい…。
私はそう思ったのだ。傲慢かもしれないが…。
そして今目の前にいるのは二人のご令嬢。
一人は愛くるしい顔立ちながら、私を見るなり眉を潜めた。
大丈夫です。小声でダサッて言ったの聞こえてました。
もう一人はキツメの美人。
スタイルも良く、まさにわがままボディというやつだと私は思った。
容姿の派手さに比べ性格は大人しいようで、妹の影に隠れている。
私は個人的好みと第一印象からキツメの美人に狙いをつけた。性根が悪いと分かりきっている令嬢に興味はない。自分でどうにかするだろう。
伝を使い、彼女たちの家に近づいたのには訳がある。
実はこの家、とても評判が悪い。
姉妹どちらとも婚約者がいるのだが、婚約破棄も時間の問題だと専らの噂なのだ。
きつめの美人─エーデルは見た目は強そうなのに自信の無さが見え隠れする。
そういう者はなめられやすい。
自分の方がいい女だと根拠もなく思い、自信満々な女どもが彼女の婚約者を虎視眈々と狙っていると言う。その中には彼女の妹も含まれているとかいないとか…。
エーデルの妹で、先程私をディスってくれた童顔女─リリィの方はというと…。
今まで親に怒られたことなど一度もないのだろう。常に褒められ生きてきた彼女は、他者が自分以外の女を称賛するのが許せない。
あらゆる男に色目を使い遊びまくっているせいで、元々の婚約者との関係も破綻するだろうと言われている。
どちらもまずい状況だが、なんとかなりそうなのはエーデルだろう。
私が何か言う前に、リリィが言った。
「お姉さまにお譲りするわ。私は教師に困っていないし…。」
エーデルは躊躇っている様子だったが、これ幸いとばかりに私は押し通した。
「エーデル様これからよろしくお願い致します。」
彼女は断らなかった。
それからというもの、私は彼女に心を開いてもらうべく常に一歩踏み込んだ会話を試みた。
彼女のガードは固かったが、妹の話となると口が緩む。幼き頃からの鬱憤が積もり積もっているようだった。
「お父様もお母様もいつもあの娘のことばかり…。今はもう諦めているけど、昔は辛かったわ…。」
「エーデル様の魅力が分からないとは…。どうかしてます…」
「…私に魅力などないわ。」
「お嬢様はご自身についてお分かりでないようですね。」
自信をつけさせるために、過去の自分を思い起こさせては魅力を具体化した。常にちょっとしたことを褒めるというのも忘れない。
ネガティブな自己評価をポジティブなものへと変えていく。
時間はかかったが効果はあった。
次第に彼女は他者に対し、堂々と振る舞い、自身が持つ本来の魅力を出せるようになってきた。しかしここで自信をつけすぎ、口だけ男に恋をしてしまっては台無しだ。
彼女にはそういった男の生態について詳しく語り、信じなければ危ない橋も渡った。
実際その目で見るのが一番なのだから。
そして私は寄り添い励まし時に叱り一番の味方となった。
結果的にどうなったかと言うと…。
「お姉さまずるいわ。私から何もかも奪って…。」
「言ってる意味が分からないわ。」
争う二人の姉妹。しかし立場は逆転した。
エーデルは社交界の華となり、婚約者との仲も上手くいっている。むしろ前より優しくなったと幸せそうだ。
一方妹、リリィの方はというと…。
元から同性に嫌われていたのに加え、男達の興味もエーデルへと移り、すっかり社交界のつまはじき者だ。
婚約者からも婚約破棄の申し立てをされてしまった。一度汚れれば白くはならない。社交界という見た目だけはきらびやかな毒槽の中で、彼女はこれからずっと笑われる立場の魚だ。
私はエーデル様と交流を続けつつ、新たに紹介された令嬢の元へ羽ばたいていく。
これはほんの始まり。
私が幸福を呼ぶ家庭教師と言われるようになるまで後少し。
私がソリスとして生きる今の世には存在しない言葉。
ただ夢でその存在について知り私は思ったのだ。
─悪役と呼ばれるだけあって、皆総じてキツイ顔立ちの美形、家柄も良い。加えて能力も高いのにコミュ力低い人多くない?
コミュニケーション能力。それは他者との摩擦をできる限り減らし、生きやすいよう振る舞う能力だと思う。
彼らのようにただでさえ嫉妬されやすい人間が、それを捌く方法も身につけず適齢期になり待っているのは…身の破滅だ。
サイコパスだったり武力があったりする令嬢ならなんとかなるかもしれないが、親の愛を知らず不器用に、高慢に育ってしまった彼女らを導きたい…。
私はそう思ったのだ。傲慢かもしれないが…。
そして今目の前にいるのは二人のご令嬢。
一人は愛くるしい顔立ちながら、私を見るなり眉を潜めた。
大丈夫です。小声でダサッて言ったの聞こえてました。
もう一人はキツメの美人。
スタイルも良く、まさにわがままボディというやつだと私は思った。
容姿の派手さに比べ性格は大人しいようで、妹の影に隠れている。
私は個人的好みと第一印象からキツメの美人に狙いをつけた。性根が悪いと分かりきっている令嬢に興味はない。自分でどうにかするだろう。
伝を使い、彼女たちの家に近づいたのには訳がある。
実はこの家、とても評判が悪い。
姉妹どちらとも婚約者がいるのだが、婚約破棄も時間の問題だと専らの噂なのだ。
きつめの美人─エーデルは見た目は強そうなのに自信の無さが見え隠れする。
そういう者はなめられやすい。
自分の方がいい女だと根拠もなく思い、自信満々な女どもが彼女の婚約者を虎視眈々と狙っていると言う。その中には彼女の妹も含まれているとかいないとか…。
エーデルの妹で、先程私をディスってくれた童顔女─リリィの方はというと…。
今まで親に怒られたことなど一度もないのだろう。常に褒められ生きてきた彼女は、他者が自分以外の女を称賛するのが許せない。
あらゆる男に色目を使い遊びまくっているせいで、元々の婚約者との関係も破綻するだろうと言われている。
どちらもまずい状況だが、なんとかなりそうなのはエーデルだろう。
私が何か言う前に、リリィが言った。
「お姉さまにお譲りするわ。私は教師に困っていないし…。」
エーデルは躊躇っている様子だったが、これ幸いとばかりに私は押し通した。
「エーデル様これからよろしくお願い致します。」
彼女は断らなかった。
それからというもの、私は彼女に心を開いてもらうべく常に一歩踏み込んだ会話を試みた。
彼女のガードは固かったが、妹の話となると口が緩む。幼き頃からの鬱憤が積もり積もっているようだった。
「お父様もお母様もいつもあの娘のことばかり…。今はもう諦めているけど、昔は辛かったわ…。」
「エーデル様の魅力が分からないとは…。どうかしてます…」
「…私に魅力などないわ。」
「お嬢様はご自身についてお分かりでないようですね。」
自信をつけさせるために、過去の自分を思い起こさせては魅力を具体化した。常にちょっとしたことを褒めるというのも忘れない。
ネガティブな自己評価をポジティブなものへと変えていく。
時間はかかったが効果はあった。
次第に彼女は他者に対し、堂々と振る舞い、自身が持つ本来の魅力を出せるようになってきた。しかしここで自信をつけすぎ、口だけ男に恋をしてしまっては台無しだ。
彼女にはそういった男の生態について詳しく語り、信じなければ危ない橋も渡った。
実際その目で見るのが一番なのだから。
そして私は寄り添い励まし時に叱り一番の味方となった。
結果的にどうなったかと言うと…。
「お姉さまずるいわ。私から何もかも奪って…。」
「言ってる意味が分からないわ。」
争う二人の姉妹。しかし立場は逆転した。
エーデルは社交界の華となり、婚約者との仲も上手くいっている。むしろ前より優しくなったと幸せそうだ。
一方妹、リリィの方はというと…。
元から同性に嫌われていたのに加え、男達の興味もエーデルへと移り、すっかり社交界のつまはじき者だ。
婚約者からも婚約破棄の申し立てをされてしまった。一度汚れれば白くはならない。社交界という見た目だけはきらびやかな毒槽の中で、彼女はこれからずっと笑われる立場の魚だ。
私はエーデル様と交流を続けつつ、新たに紹介された令嬢の元へ羽ばたいていく。
これはほんの始まり。
私が幸福を呼ぶ家庭教師と言われるようになるまで後少し。
0
お気に入りに追加
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
読み聞かせ令嬢の誤算
有沢真尋
恋愛
つつましく生きて来た貧乏貴族のリジ―。
このたび晴れて決まった勤め先は、なんと第三王子の家庭教師。
(絶対にこの仕事、ものにしてみせる! 貧乏生活脱出!)
強い決意を胸に王子のもとに乗り込んではみたものの、待ち構えていたのはたいへん麗しく、たいへん意地悪な王子様で……
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!
ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。
気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる