男爵令嬢アデリナの仇討ち

ぴぴみ

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疼き

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「急ぎなのか…?」

男の問いに私は頷いた。
しばらく考えこんでいたようだったが、男が言った。

「分かった。
お前にもお前の事情があるよな。
だが、このまま帰すのは心配だ。薬を持ってるから飲んでくれ」

そう言って手渡された薬を見て、私は驚く。

「こんな高価なもの、もらえないわ!」

一目で分かった。万国共通の体力回復薬だ。安いものでもそれなりの値段がする。

「いいから、受けとれ。
ここで会ったのも何かの縁だ」

「でも…」

「あんまりにも言うこと聞かねぇと、キスしちまうぞ?」

「なっ最低!」

私は、渋々受け取った。

男と別れ、私は、帰りが遅かったことに対して体罰を受けたが、心は別のところにあった。

─あの人の名前、聞かなかったな

そんなことを、ちらとでも考えた自分に驚いた。
緩みそうになっていた気持ちを慌てて立て直し、復讐に目を向ける。

─今日のことは忘れないと

**

そんな私の決意を嘲笑うかのように、外に使いに出る度、鉢合わせるようになった。男がどこかから嗅ぎ付けているのだろうか。

「また、あなたなの?」

「おう!一週間ぶりだな!」

いつも元気な彼らしく、快活な笑顔を浮かべているが、今日は何かが違った。

息を吸い込むと微かに血の匂いがする。

「…あなた、もしかして怪我してる?」

「よく分かったな!確かにさっき喧嘩を止めた時に、腕を切っちまって。
ま、こんなのかすり傷だが」

男が腕をまくって、傷口を見せる。確かに少し切れただけといった感じだ。

しかし、見た瞬間、私は動きを止めた。
甘い甘い匂い。
なんだか、とってもいい香り…。
引き寄せられる。

「おい!どうした?」

気づけば男の腕に顔を近づけていた。

「な、なんでもないの!ごめんなさい!」

私は、今、なにを?

あまりの事態に頭がゆだったように沸騰する。恥ずかしくて男の顔が見られなかった。

人生で一番という速度で走り去り、私は男から大分離れたところで一息ついた。

先程の自分は、おかしかった。
次にどんな顔して会えば?

うぅと唸るも解決策はない。私はトボトボと屋敷への道を歩いた。


─深夜

身体がうずいて、目が覚めた。
こんなことは、今まで一度もなかったことだ。

「はぁ…」

頭に浮かぶのは昼間の光景。甘い香り。男の顔。
身体が自然、熱くなる。

まさか、発情しているのかと考え首を振る。私はそんな女ではないはずだ。
目を瞑って、身体を小さくし、衝動がおさまるのをひたすら待つ。

窓から見える月の位置は、まだ高い。
夜は、長そうだった。
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