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真相
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男爵が、東洋狂いだというのは知られた話だ。自身のコレクションも凄まじいが、娘にも“アオイ”と名付けるぐらいである。
それも、東洋の島国の姫の名前だと誰かから聞いた。
─ふっ馬鹿馬鹿しい
オークションもまだ途中だというのに、私は口端を歪めて笑ってしまう。
─どこかのお姫様も可哀想に
性悪な女と同じ名前をつけられて、あの世でさぞかし迷惑していることだろう…。
私が、徐々につり上がっていく値を聞きながら、冷めた目で見つめる中、次々に品物は売られていく。
いよいよ最後の品となって、高らかな音楽が会場を満たし、人々の興奮が否が応にも高まっていくのが分かる。
どうせ、大したものじゃないと手渡された紙を読み上げる。
「それでは今宵一番の貴重な品。
一滴でどんな異性もイチコロ─」
私は、次に目に入った文に一瞬呼吸を止める。しかし、のろのろと読み上げた。
「………媚薬の中の媚薬。
…皆様、獣人の間にだけ伝わるお伽噺をご存知でしょうか?」
いきなり話し始めた内容に、客席から訝しげな声が聞こえる。平静でいられない。
しかし、読み上げなくては…。
私はその使命感で口を開いた。
「獣人には運命の番というものが存在します。彼らは、互いを唯一の存在として生涯を共にするのです。」
馬鹿にする声が聞こえるが、気にしない。
それどころではなかったから。
「─そしてこの薬は、獣人だけが見つけられる薬草からできた禁忌の薬。
…相手に自分が運命の番─相手だと誤認させるもの。それを作る獣人の、命を蝕む…ほどに強力な力。
始まりは1000万€─」
最後はただ、機械的に読み上げていた。
分かってしまった、いやわざと分からされてしまったから。
私が、母の死の真相を探っていることを知っていて素知らぬ顔で、こんな場で答えを提供する。
─彼らは私を獣と蔑むが、獣にもちゃんと
心はあるし、生きている。
一体、どちらが、化け物なのか?
それを教えてあげないとねと、私は噛み締めて切れてしまった唇の血を拭い、仮面の下から睨み付けた。
この復讐の炎は、男爵家を討ち滅ぼせたとして、果たしておさまるのだろうか。
一抹の不安を抱えるも、歩みだした足は止まらない。
これが、運命だというなら、くそくらえだ…。
1年に満たない間だが、準備はしてきた。
死ぬより恐ろしいことなど、この世にいくらでもある。
見ていてね?母さん。
私がきっと、仇を討つから。
それも、東洋の島国の姫の名前だと誰かから聞いた。
─ふっ馬鹿馬鹿しい
オークションもまだ途中だというのに、私は口端を歪めて笑ってしまう。
─どこかのお姫様も可哀想に
性悪な女と同じ名前をつけられて、あの世でさぞかし迷惑していることだろう…。
私が、徐々につり上がっていく値を聞きながら、冷めた目で見つめる中、次々に品物は売られていく。
いよいよ最後の品となって、高らかな音楽が会場を満たし、人々の興奮が否が応にも高まっていくのが分かる。
どうせ、大したものじゃないと手渡された紙を読み上げる。
「それでは今宵一番の貴重な品。
一滴でどんな異性もイチコロ─」
私は、次に目に入った文に一瞬呼吸を止める。しかし、のろのろと読み上げた。
「………媚薬の中の媚薬。
…皆様、獣人の間にだけ伝わるお伽噺をご存知でしょうか?」
いきなり話し始めた内容に、客席から訝しげな声が聞こえる。平静でいられない。
しかし、読み上げなくては…。
私はその使命感で口を開いた。
「獣人には運命の番というものが存在します。彼らは、互いを唯一の存在として生涯を共にするのです。」
馬鹿にする声が聞こえるが、気にしない。
それどころではなかったから。
「─そしてこの薬は、獣人だけが見つけられる薬草からできた禁忌の薬。
…相手に自分が運命の番─相手だと誤認させるもの。それを作る獣人の、命を蝕む…ほどに強力な力。
始まりは1000万€─」
最後はただ、機械的に読み上げていた。
分かってしまった、いやわざと分からされてしまったから。
私が、母の死の真相を探っていることを知っていて素知らぬ顔で、こんな場で答えを提供する。
─彼らは私を獣と蔑むが、獣にもちゃんと
心はあるし、生きている。
一体、どちらが、化け物なのか?
それを教えてあげないとねと、私は噛み締めて切れてしまった唇の血を拭い、仮面の下から睨み付けた。
この復讐の炎は、男爵家を討ち滅ぼせたとして、果たしておさまるのだろうか。
一抹の不安を抱えるも、歩みだした足は止まらない。
これが、運命だというなら、くそくらえだ…。
1年に満たない間だが、準備はしてきた。
死ぬより恐ろしいことなど、この世にいくらでもある。
見ていてね?母さん。
私がきっと、仇を討つから。
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