ヤンデレ義弟に殺されるなど真っ平ごめんです

ぴぴみ

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日常編

癇癪

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ガッシャン

廊下まで聞こえる、何かが絶えず壊されているだろう音に、使用人は戦々恐々としていた。

侵入者の存在など、疑ってはいない。
彼らは分かっていた。
─フィリップが感情のままに暴れているのだと。

「お前、覗けよ」

「!…冗談じゃないわ。視線だけで射殺されるわよ」

メイドが声を潜めて、視線で訴える。

「そんなに気になるなら、あなたが確認してみれば?」

「それこそ、御免こうむる」

何度か逃げ出そうとしたフィリップを力づくで押し戻し、『どうかご辛抱ください。旦那様のご命令です』と繰り返してきた彼らは、間違いなく恨まれている。

闇を孕んだ瞳を思い出し、ぶるりと震える。

フィリップを外に出すわけにはいかない。
それが、彼らに与えられた仕事で、ここにいる意味だ。

子爵は、意に沿わない行動をとる人間を処罰することに何の躊躇いも持たないだろう。

それが、分かっているからこそ、真剣にならざるをえなかった。



(姉さんと離れて暮らす?冗談じゃない…)

フィリップの心は荒れていたが、使用人たちが考えるほど感情的になってはいなかった。

憂さ晴らしも兼ねているとはいえ、彼は至極冷静に考え、相手─子爵の出方を窺っていた。

(ま、物を壊したぐらいじゃ子爵は動かないか。使用人もこの場を離れてまで報告しないだろうし…)

物を投げるのにも飽きたなと思いかけた頃、バルコニー側の窓がコンコンと音を立てた。

不思議に思い側に寄ると、そこにローズがいた。

「姉さ…!?」

「しっ静かに」

人差し指を口に近づけて被せるように言う。

手練れの監視はついていなかったようだ。
でなければ、たとえ、窓からといえども抜けだせはしない。

「どうやってここに?」

抑えた声でフィリップが言う。

「…そんなこと今はいいの!
あなたに、会えてよかった…!」

急ぎ、子爵との会話について話す。
交わした条件については触れずに。

「…学園に…」

「ええ、逆らえそうにないわ。
…でも、安心して!すぐ戻ってくるから」

「すぐ…」

「ええ!きっと、あっという間よ」

ローズが無理して明るく振る舞っているだろうことは当然分かっていたが、フィリップは自身の感情を抑えられそうになかった。

「……僕が望む限り、僕から離れないって言ったよね?」
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