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日常編

健全不健全

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「それじゃあ、5分だけ待って」

浴室は広く、替えのネグリジェも置いてある。前世、驚嘆された早着替えの技を遺憾なく発揮した私は言った。

「もう、入ってきてもいいわよ」

フィリップは堂々と入ってきて私を見た。

「…何で、服着ちゃってるの?」

「NG」

「え、なんて?」

「不健全」

「むぅ」

「可愛く言ってもダメ」

推しと入浴するには、圧倒的に経験値が足りない。私は、揺らがなかった。こちらに少しでも邪な気持ちがある以上、健全な『姉弟で一緒にお風呂』とはならない。そもそもこの年で入ることもないだろうが…。

とはいえ、落ち込んでいるかもしれないフィリップを放っておくこともできない。
私は言った。

「マッサージで手を打ちましょう?」



フィリップはしばらく駄々をこねたが、結局目元をマッサージするということで落ち着いた。入浴してもらった状態で。

(どうして、こうなった…?)

いや、分かってはいる。寒そうにしていたフィリップに…以下略である。

推しに風邪をひかせる訳にはいかない。仕方がない…。そう言い聞かせる。
腹をくくった私はドレスの袖を捲った。まずは見た目から気合いを入れる。

そして、フィリップに扉の外から声を掛けた。

「もういい、かしら?」

「うん」

私は視線をさ迷わせながら入室し、一歩一歩近づいていく。手にはタオルを持って。

白い泡のおかげでフィリップの身体は隠されている。それにほっとしながらも、できるだけ彼を見ないようにしてなんとか辿り着いた。

タオルを手渡し、湯に浸してもらう。
それをまた受け取り、魔力で瞬時に軽く水気を飛ばした。丁度いい温度だ。

「眼を閉じて?」

海の色より濃い蒼の瞳が隠される。それを惜しく思いながらも、私はタオルを彼の顔にそっと乗せた。

「…あったかい」

「よかったわ。そのまま動かないでね」

私は優しく、フィリップの目周りを押していく。何周かした後、頭部のツボも押していく。強すぎても弱すぎてもいけない。慎重に、場所を見極めて押していく。

彼の身体から力が抜けていく。

(甘えたかったのもあるだろうけど、それだけじゃないわね。…憂いを少しでも忘れてくれたらいい)

そう、思いながら私は手を動かしたのだった。





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