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日常編
泡あわ
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夜の帳がすっかり下りた頃。
私は、浴槽で身体の疲れを癒していた。
本来なら侍女にも手伝わせるところなのだろうが、それは最低限に、基本一人ゆっくりとお湯を堪能するのが常だった。
前世の記憶からか、どうしても敬遠してしまうのだ。
大事な用事の前とかは、磨かれるのも我慢するけれど。
(でも、まあ、身体見られるのは恥ずかしいしね…)
元はローズの身体だ。陶器のように滑らかな真珠肌。まだ少女と呼べる年頃でありながら、手足はほっそりと長く、指の先まで美しい。胸も成長途中とはいえ、膨らんできている。
むしろ見せつけてもいいくらいなのだが、今は私の身体でもある。
見られれば当然に羞恥を感じる。
ゆっくりと瞼を閉じる。
今日の疲れが癒えていくようだった。
私はふぅと一息つき、腕を軽く持ち上げた。
白く弾力ある泡がついてくる。
その、もこもことした感触を楽しんでいると突然声がした。
「姉さん、そこにいる?」
「!」
なぜ、という思いは言葉にならなかった。
「いないのかな?入るよ」
「ッ、ま、待ってフィル!」
「やっぱりそこにいたんだね」
私の戸惑いをよそに、フィリップの声はあまりにもいつも通りだった。ドア一枚隔てた、すぐそこにいる。
え、これって普通?
私の方がおかしいの?
確かに前世も弟がいたけど、こんなこと…。
いや仮に壁一枚隔てた所から声をかけられたとして、ここまで動揺しないわ。
私は思い直した。
推しが推しである故に、恥じらいを持ってしまったのだ。
本来弟にはもっと邪険に………いや無理!
私は早々に諦めた。
「そもそも侍女に止められなかった?」
「…僕が言ったらすぐ出て行ってくれたよ」
うそ、だろ。
侍女さんたち、なぜ出てっていってしまったんだ…。
私は、よよと嘆いた。
「─それで、何かあったの?」
余程大変なことが起こったのかと、フィリップに聞く。
「いやなんとなく」
「……そう」
急ぎでないと知り、フィリップの意図がますます読めなくなる。
「なら、どうして?」
「姉さんの顔が見たくて」
嬉しいですけど、少し待って。
「すぐ出るから自分の部屋で待っていて」
「入っちゃだめ?」
「だめです」
即答だった。教育上よろしくありません。
「怖い夢見て、魘されて、姉さんの顔見たくなったって言っても?」
「………………………」
一息に言われた言葉。もっともらしい嘘とも言える。
ただここで推しを信じないなど、ファン失格。
私は口を開いた。
「…それじゃあ─」
私は、浴槽で身体の疲れを癒していた。
本来なら侍女にも手伝わせるところなのだろうが、それは最低限に、基本一人ゆっくりとお湯を堪能するのが常だった。
前世の記憶からか、どうしても敬遠してしまうのだ。
大事な用事の前とかは、磨かれるのも我慢するけれど。
(でも、まあ、身体見られるのは恥ずかしいしね…)
元はローズの身体だ。陶器のように滑らかな真珠肌。まだ少女と呼べる年頃でありながら、手足はほっそりと長く、指の先まで美しい。胸も成長途中とはいえ、膨らんできている。
むしろ見せつけてもいいくらいなのだが、今は私の身体でもある。
見られれば当然に羞恥を感じる。
ゆっくりと瞼を閉じる。
今日の疲れが癒えていくようだった。
私はふぅと一息つき、腕を軽く持ち上げた。
白く弾力ある泡がついてくる。
その、もこもことした感触を楽しんでいると突然声がした。
「姉さん、そこにいる?」
「!」
なぜ、という思いは言葉にならなかった。
「いないのかな?入るよ」
「ッ、ま、待ってフィル!」
「やっぱりそこにいたんだね」
私の戸惑いをよそに、フィリップの声はあまりにもいつも通りだった。ドア一枚隔てた、すぐそこにいる。
え、これって普通?
私の方がおかしいの?
確かに前世も弟がいたけど、こんなこと…。
いや仮に壁一枚隔てた所から声をかけられたとして、ここまで動揺しないわ。
私は思い直した。
推しが推しである故に、恥じらいを持ってしまったのだ。
本来弟にはもっと邪険に………いや無理!
私は早々に諦めた。
「そもそも侍女に止められなかった?」
「…僕が言ったらすぐ出て行ってくれたよ」
うそ、だろ。
侍女さんたち、なぜ出てっていってしまったんだ…。
私は、よよと嘆いた。
「─それで、何かあったの?」
余程大変なことが起こったのかと、フィリップに聞く。
「いやなんとなく」
「……そう」
急ぎでないと知り、フィリップの意図がますます読めなくなる。
「なら、どうして?」
「姉さんの顔が見たくて」
嬉しいですけど、少し待って。
「すぐ出るから自分の部屋で待っていて」
「入っちゃだめ?」
「だめです」
即答だった。教育上よろしくありません。
「怖い夢見て、魘されて、姉さんの顔見たくなったって言っても?」
「………………………」
一息に言われた言葉。もっともらしい嘘とも言える。
ただここで推しを信じないなど、ファン失格。
私は口を開いた。
「…それじゃあ─」
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