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日常編

振り回される

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前いた世界の貴族たちは、入浴しない者がほとんどだったようだがこの世界は違う。

衛生管理がしっかりとしていて、お風呂に入る習慣もある。ただ私は思う。やっぱり一緒には無理でしょ。いくら子供とはいえ…。

心を鬼にして答える。


「身体を拭いてあげるからそれで我慢して?」

「…姉さんは僕のこと嫌い…なの?」

「うう。そんなこと言ってないでしょう?」


私は彼のこの瞳に弱い。うるうるされると何でも許したくなってしまう。分かってやっているなら小悪魔確定だ。

「じゃあ…どうしてだめなの?」

徐々に追い詰められていく。
この歳の男女でお風呂に入るのはありなのか?まあ義理とはいえ兄弟だし…。いやいやでも…。
答えられずぐるぐると考えていると、フィリップが近づいてくる。

「…もう姉さん冗談だよ?でもお風呂に入りたいのは本当だから見ててくれる?…まだちょっと身体がふらつくんだ。」

「わわかったわ。」

残念なような助かったような…。一緒にお風呂に入ることは避けられたが、結局フィリップの入浴を見守ることになってしまった。

私はそれに疑問を覚えず、ゆるゆるとふらつきながら衣服を脱ぎ出した彼を止める。

「もう無理しちゃだめよ?ボタンはとってあげるからちょっと待ってね。」

幼い子供の衣服を着替えさせる感覚でボタンを外していく。しかし肌が覗いたところではたと止まる。やってしまった…!

狼狽しながらも後は自分でと言い、部屋を出ていく私は知らなかった。その時彼が可笑しそうに笑っていたなんて…。

準備ができたと言う彼の声を聞いて、浴室に入るとお湯に浸かっている姿が見えた。


「あまり長く浸かりすぎないようにね。のぼせるとよくないわ。」

「わかってる。それより髪洗ってくれるよね?」

さも当然のように彼が言う。弱ってるから甘えたいのかなと私は思い了承した。

彼の眼に泡が入らないよう、慎重に洗う。艶やかな黒髪を優しく揉みしだく。フィリップは気持ち良さそうに眼を閉じされるがままになっていた。

「きもちいい。」

柔らかく笑う彼を見て、このままずっとこの幸せな時間が続けばいいのにと思った。

…だが刻々と選択の時は迫っていたのだ。ローズの身体が、内に存在する二つの魂の重みに耐えられず壊れようとしている。遠からず倒れることだろう。

元の世界に戻るため離れるのか、本来のローズから身体を奪いこの世界で生きていくのか、はたまた融合できるのか。

彼女は考え、選択しなければいけないのだがまだそれは先のお話。


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