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日常編

でろでろに甘やかす

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初めは反対されたが、なんとか押し通した。癇癪持ちの我が儘令嬢を使用人が止められるわけがないのだから。

「フィルいる?」

私はフィリップの愛称であるフィルとずうずうしくも呼びながら、部屋に入る。ベッドの膨らみがびくりと揺れる。彼はそこにくるまっていたようだった。

「勝手に入ってごめんなさい。少しお話したくて…。」

少年が弱々しく顔を出し、やがて目前に立った。眼の周りが赤く染まっている。

「泣いていたのね?」

俯く少年にゆっくり近づいていく。怯えさせないように一歩ずつ。手を伸ばしかけたところで彼の肩がびくりとする。大丈夫何も怖いことはしないから。私は柔らかく笑いながら彼と眼を合わせた。

「本当に綺麗。」

うっとりしながら少年の頬を両手で包みこむ。しかし少年に振り払われた。

「綺麗なわけがない!嘘をつくな!」

意外な激しさをぶつけられる。小さな身体が怒りで燃えていた。我に返り青ざめた少年は謝罪もできずに固まった。

「ご、ごめ、なさ…。」

「落ち着いて。いきなり触ってしまった私が悪いの。」

私は反省する。彼の苦しみに土足で踏み込んでしまった。しかし諦めない。でろでろに甘やかすという目的の下一歩も退かない。

「綺麗だと思ったのは本当。今は信じられなくてもいいけれど。」

言いたいことだけ言って、私は部屋に帰ろうとした。が、ふと思いとどまる。
甘やかし2割欲望8割。今自分が子供だということが私の理性というブレーキを故障させた。

「疲れたでしょうし一緒にお昼寝しましょう?」

少年は先ほど手を振り払ってしまった負い目からか、あまり強く出られないようだった。私は心の中でガッツポーズを取った。オーロラ嬢、今は子供だから見逃して。

「で、でも…。」

「いいからいいから。私、弟を持つのが夢だったの…。だめ?」

少年は観念した。私は彼の手を引きベッド上に連れていく。仲良く程近い距離に寝転がった。少年の小さな背中をとんとんと優しくたたく。

気を張っていた少年も知らぬ家に連れてこられた緊張からか身体が疲れていたようで次第にすーっと寝息を立て始めた。

顔は見えないけど幸せ。私は満足して自身も眠りにつくのだった。夕食の時間になっても来ない二人を探して人が来るまですやすやと。

使用人たちが実は廊下で騒いでいたのも知らず。

─お嬢様がお坊っちゃまのお世話をするって言って出てこないんだけどどうする?中に入るなと言われてるし。でも手遅れな状況になってたら…。やっぱり旦那様にご報告を。

それは既に夢の中の二人にとって知る由もないこと。
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