ヤンデレ義弟に殺されるなど真っ平ごめんです

ぴぴみ

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日常編

滾った

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混乱した私は、優しそうな男を追い出した。一人で考える時間が必要だったのだ。

(えっと…私さっきまで何してたっけ?確か…?)

「あの…。ローズ様。」

ぐるぐる考えているとそんな思考を遮るように、一人の少年が俯き怯えながら部屋に入ってきた。

顔半分には黒々とした痣のようなものが覆い整った顔を隠している。小動物のように震え、自身の服を掴みながら懸命に私の顔を見ようとしては俯く。それを何度か繰り返していた。蒼い瞳は宝石のようで、しばし何もかも忘れて見つめてしまう。可愛いんだからもっと堂々としてもいいのに。あ、でもこれはこれであり。なんという美少年。

しかしその瞬間滾った思いは、私にあることを思い出させた。

─あ、推し。

強烈な既視感デジャヴが私を襲う。
お気に入りの小説『蒼の炎に囚われて』の一節が思い浮かんだ。

…彼はオーロラのため、そして自身の過去に決着をつけるため、身の内を焼くような激しい炎に身を任せて魔女を殺すことに決めた。

私はこの小説の主人公フィリップとオーロラの関係性をこよなく愛していた。エンディング後の幸せな二人の日常を妄想するほどに。
そのフィリップの幼少期の描写に目の前の少年はぴたりと当てはまっている。

黒髪に蒼い瞳。日の光にあまり当たっていなかったのか肌は白く、将来美形に育つことが決まりきっている整った顔立ち。しかし顔半分に存在する黒い紋様がそれを分かりにくくさせていた。

伯爵の生まれながらも、生まれ持った呪いを厭われ子爵家に養子に出される不遇の少年。
そこまで考えて重大な疑問を覚えた。

(あれ?えー?魔女って誰だっけ?)

私は考える。確か主人公フィリップの義理の姉でローズっていう名前の傲慢な貴族令嬢…。まさか、この身体の元の持ち主のことじゃないわよね。冷や汗が背を伝う。

恐ろしい事実から逃れようとするも、偶然の一致では片付けられない符合が私を打ちのめす。

この体はローズと呼ばれ、貴族的な生活をしている実際貴族の少女のもの。これで少年がフィリップと名乗ったら完璧だ。私は恐る恐る聞く。

「…あなたのお名前は?」

「…フィリッ」

「ちょちょちょっと待ってー。心の準備が…。」

私は最後の悪あがきをし、少年の言葉を遮ったが悲しい顔に見つめられて自身を詰った。このくず。推しを悲しませるなど万死に値する。

「ごめんなさい。遮ってしまって。もう一度聞いてもいい?」

「フィリップで‥す…。」

泣きそうな顔を見て思わず彼を抱き締めた。
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