2 / 44
日常編
滾った
しおりを挟む
混乱した私は、優しそうな男を追い出した。一人で考える時間が必要だったのだ。
(えっと…私さっきまで何してたっけ?確か…?)
「あの…。ローズ様。」
ぐるぐる考えているとそんな思考を遮るように、一人の少年が俯き怯えながら部屋に入ってきた。
顔半分には黒々とした痣のようなものが覆い整った顔を隠している。小動物のように震え、自身の服を掴みながら懸命に私の顔を見ようとしては俯く。それを何度か繰り返していた。蒼い瞳は宝石のようで、しばし何もかも忘れて見つめてしまう。可愛いんだからもっと堂々としてもいいのに。あ、でもこれはこれであり。なんという美少年。
しかしその瞬間滾った思いは、私にあることを思い出させた。
─あ、推し。
強烈な既視感が私を襲う。
お気に入りの小説『蒼の炎に囚われて』の一節が思い浮かんだ。
…彼はオーロラのため、そして自身の過去に決着をつけるため、身の内を焼くような激しい炎に身を任せて魔女を殺すことに決めた。
私はこの小説の主人公フィリップとオーロラの関係性をこよなく愛していた。エンディング後の幸せな二人の日常を妄想するほどに。
そのフィリップの幼少期の描写に目の前の少年はぴたりと当てはまっている。
黒髪に蒼い瞳。日の光にあまり当たっていなかったのか肌は白く、将来美形に育つことが決まりきっている整った顔立ち。しかし顔半分に存在する黒い紋様がそれを分かりにくくさせていた。
伯爵の生まれながらも、生まれ持った呪いを厭われ子爵家に養子に出される不遇の少年。
そこまで考えて重大な疑問を覚えた。
(あれ?えー?魔女って誰だっけ?)
私は考える。確か主人公フィリップの義理の姉でローズっていう名前の傲慢な貴族令嬢…。まさか、この身体の元の持ち主のことじゃないわよね。冷や汗が背を伝う。
恐ろしい事実から逃れようとするも、偶然の一致では片付けられない符合が私を打ちのめす。
この体はローズと呼ばれ、貴族的な生活をしている実際貴族の少女のもの。これで少年がフィリップと名乗ったら完璧だ。私は恐る恐る聞く。
「…あなたのお名前は?」
「…フィリッ」
「ちょちょちょっと待ってー。心の準備が…。」
私は最後の悪あがきをし、少年の言葉を遮ったが悲しい顔に見つめられて自身を詰った。このくず。推しを悲しませるなど万死に値する。
「ごめんなさい。遮ってしまって。もう一度聞いてもいい?」
「フィリップで‥す…。」
泣きそうな顔を見て思わず彼を抱き締めた。
(えっと…私さっきまで何してたっけ?確か…?)
「あの…。ローズ様。」
ぐるぐる考えているとそんな思考を遮るように、一人の少年が俯き怯えながら部屋に入ってきた。
顔半分には黒々とした痣のようなものが覆い整った顔を隠している。小動物のように震え、自身の服を掴みながら懸命に私の顔を見ようとしては俯く。それを何度か繰り返していた。蒼い瞳は宝石のようで、しばし何もかも忘れて見つめてしまう。可愛いんだからもっと堂々としてもいいのに。あ、でもこれはこれであり。なんという美少年。
しかしその瞬間滾った思いは、私にあることを思い出させた。
─あ、推し。
強烈な既視感が私を襲う。
お気に入りの小説『蒼の炎に囚われて』の一節が思い浮かんだ。
…彼はオーロラのため、そして自身の過去に決着をつけるため、身の内を焼くような激しい炎に身を任せて魔女を殺すことに決めた。
私はこの小説の主人公フィリップとオーロラの関係性をこよなく愛していた。エンディング後の幸せな二人の日常を妄想するほどに。
そのフィリップの幼少期の描写に目の前の少年はぴたりと当てはまっている。
黒髪に蒼い瞳。日の光にあまり当たっていなかったのか肌は白く、将来美形に育つことが決まりきっている整った顔立ち。しかし顔半分に存在する黒い紋様がそれを分かりにくくさせていた。
伯爵の生まれながらも、生まれ持った呪いを厭われ子爵家に養子に出される不遇の少年。
そこまで考えて重大な疑問を覚えた。
(あれ?えー?魔女って誰だっけ?)
私は考える。確か主人公フィリップの義理の姉でローズっていう名前の傲慢な貴族令嬢…。まさか、この身体の元の持ち主のことじゃないわよね。冷や汗が背を伝う。
恐ろしい事実から逃れようとするも、偶然の一致では片付けられない符合が私を打ちのめす。
この体はローズと呼ばれ、貴族的な生活をしている実際貴族の少女のもの。これで少年がフィリップと名乗ったら完璧だ。私は恐る恐る聞く。
「…あなたのお名前は?」
「…フィリッ」
「ちょちょちょっと待ってー。心の準備が…。」
私は最後の悪あがきをし、少年の言葉を遮ったが悲しい顔に見つめられて自身を詰った。このくず。推しを悲しませるなど万死に値する。
「ごめんなさい。遮ってしまって。もう一度聞いてもいい?」
「フィリップで‥す…。」
泣きそうな顔を見て思わず彼を抱き締めた。
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。


悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる