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日常編

ただただごめん

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ここは女神のおわす国『エラルドキア』

民たちは女神に祈りを捧げ、日々の暮らしを感謝する。それに応えるべく女神は慈愛の笑みを浮かべて彼らを見守る。

突如ふるりと空間が揺れた。微細な揺れにすぎないが確かなものだ。

女神がちらと見ると彼女の国に一人の人間の魂が迷いこんでいた。ただの魂ではない。異世界の国のもの。

魂はふわふわと一人の民の中に入り込んだ。女神は驚いたが干渉できず彼女の運命を見守ることにした。

*****

「あなた自分の立場を分かってるの?お父様に言ってすぐ辞めさせるから。」

まだ幼い少女が目をつり上げて、叱責する。侍女は項垂れ、謝罪を繰り返した。

「謝るぐらいならきちんとしなさいよ。」

少女はつんと鼻を横に向けて優雅に紅茶を飲んだ。

陰で他の使用人たちが噂する。
─また始まった。お嬢様の使用人いびりが。今度は何が原因だい?エプロンが汚れていた、ね。なるほど。よくもまあ毎日色んなもんを思いつくもんだよ。

誰もが自分の身かわいさに侍女を助けたりなどしなかった。気づかぬ振り。美しくも小さな暴君の癇癪がおさまるのを待っている。

誰かが言う。
─こんなんで新しく来る坊っちゃまと上手くやれるのかね?やれるわけがないよ。

少女は子爵家の一人娘。諦めていた頃に生まれた念願の子だったので両親は溺愛し、望むもの全てを与えた。我慢することを知らずに育った少女は近頃何が不満なのか、性格の悪さに拍車がかかり頻繁に癇癪を起こしていた。

男の跡取りがいない子爵家は、養子をとることにしたがそのことを少女はまだ知らない。愛娘の怒りを恐れて両親は隠していたのだから。

ただ誰もが想像すらしていなかった。養子となった少年─フィリップと顔を合わせて、少女がまさか倒れてしまうとは。

皆思いがけぬ少女の繊細さに驚いたが、真実は違った。

異世界の人間の魂が乗り移った。
─真実を知るものは女神だけだった。

*****
「ローズローズお願いだから目を覚ましてくれ。」

知らない声が私を呼ぶ。起きたくないなと思いつつ無理やり眼を開ける。

目に入ってきた空間のあまりのきらびやかさに夢かと思い、二度寝しようとしたが止められた。

うーんよく寝てたのに。不満に思いつつ、ふあと欠伸をしながら声の方を向く。

「大丈夫かい?医者を呼ぶ?」

優しそうな男が私を見ていた。混乱する私の頭がずきりと痛む。すごい情報量が一度に脳を駆け巡る。

そして理解する。

(私、見知らぬ少女の身体を奪ってしまった!?)


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