魔法の代償

少年の動揺

(無防備が過ぎる。)

　少年は、女の家への道を大股で辿っていた。ふとすると先程見た女の裸体が思い起こされ、慌てて振り払う。


　思えば出会いからあの女は警戒心が足りなかったと、少年は思う。襤褸ぼろを纏い、いかにも逃げ出してきましたと言わんばかりの奴隷を相手に背を向け、よくも介抱したものだ。

　この国では奴隷に人権はない。逃げ出してまた捕まりでもすればどうなるか、想像するまでもない。

　放っておけば自分など野垂れ死んでいたかもしれないのにわざわざ手当てまでして…。
　
　そこまで回想したところで、目前で衣服を脱ぎ出したことまで頭に上る。

「くそっ」

(俺は変態か…！)

　自己嫌悪しつつ、やはりあれは女が悪いと思い直す。いくら自分が16かそこらの歳だとは言え、無防備にも程がある。

　一言言ってやろうと思いつつも、川での水浴びは完全なる覗きであり、指摘できるわけもなく、服の着替えについても時間が経ってから言うのでは意味合いが異なる。

　どうせすぐここを出ていくのだからと、苦い思いと共に胸の内に留めることにした。

　これからどうするか、と考えても仕方のないことを思考する。とりとめのないことが頭に浮かんでは消えた。

　町に出ればすぐ捕まるだろうし、金もない。頼れる者もいない。この森に潜むのが一番安全なのかもしれなかったが、あの女が何者か分からない。

　油断させておいて裏切ることも十分に考えられる。これまで出会ってきた奴らは皆そうだったから。

　気を許さず女を観察しよう。そう結論付け少年は足早に道を戻るのだった。