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第125話:厄介の種火
しおりを挟むリジェネイター
それは生まれたころからシェリーの身に宿っていた力だった。傷を負っても再生し、かすり傷程度なら切られたそばから回復してしまう。成長に伴い強力になるその力は、今や腕一本程度数分かからず元通り再生してしまうほどだ。
このリジェネイターという能力、持っているものは数は少ないが存在するものの、その中でもシェリーが特別とされるのが、この力を他人に行使するというものだった。
領主という地位、美しい姿、そしてリジェネイターという能力。彼女が『聖女』と呼ばれ、崇めたられるのは当然の結果であり、そうなるまでさほど時間はかからなかった。
だがこれこそ、ジークスが不安視していた事態だったのだ。アトフィスの中だけで収まるのならよかったのだが、当然収まるはずもない。アトフィスの聖女の名前は、人の口を伝い、伝播していってしまった。
そしてそれは、最悪の結果を招くことになる。
シェリーの名が知れ渡ってから数年後、アトフィスの街に一人の男が訪れる。男は領主に話があると、謁見を申し出た。
「ロザン・カーティスと申します」
堀が深く、高い鼻。癖のある黒髪はクルクルとうねっておりまるで蛇のようだ。
「ようこそロザンさん、アトフィスの街へ。私に謁見を申し出たということは、観光できたわけではないのだろう?」
ジークスの言葉に、ロザンは布のカバンを取り出した。どうやら魔術の施されたカバンだったようで、男はカバンより大きなものをそこから取り出して見せる。
何かの装置のようだ。歯車や軸のようなものが付いており、まるでエンジンのようだ。
「これは永久駆動ゼンマイと呼ばれるものです」
ロザンの言葉にジークスは耳を疑う。
「何?永久駆動ゼンマイだと!?オーパーツ級の代物じゃないか。なぜそんなものを・・・いや、そもそもそれは本物なのか?」
「えぇ、勿論ですとも。後ほど使って見せましょう。そうすれば信じて頂けるはずです」
知っているなら話は早い、とロザンは言葉を続ける。
「永久駆動ゼンマイは、その絶大な力故争いの火種になりかねない。それを恐れた私どもは誰にも暴かれない隠し場所を探っていたのです。そして・・・」
「このアトフィスに、争いの種を隠すというのか?」
ずんっと空気が重くなるのを感じるロザン。
先程まで穏やかだったジークスの目にもはや客人としての視線はなく、場合によっては切り伏せる、そんな凄みを感じる眼光を放っていた。
「説明して見せろ、アトフィスにそんな厄介なものを持ち込んだ理由を」
(言葉を間違えれば、殺されるな・・・)
ロザンは冷や汗がにじむのを感じる。
「え、えぇ。まず、ゼンマイを魔術で発見されにくい場所であるというのが一つです。この街には巨大な聖なる力を宿すお方がいらっしゃる。充満する聖なる力のおかげで、ゼンマイの放つ魔力なんてものはかき消えて見えなくなりますので、遠方から発見される心配がありません」
「そしてもう一つ、この街の戦力です。仮に万が一見つかったとしても、この街の戦力に聖女の力が合わされば、一国の兵力に値するとみております。もちろんこちらからお願いする立場上、いくらでも兵力の増強を致します。彼らの食料などはわが国で補いますし、我々はアトフィスを優遇する準備ができております」
「・・・なるほど。だがしかし」
「よくお考え下さい」
ロザンはジークスの言葉を遮る。
「ほかの街に隠してばれてしまうようなことがあれば、たちまちに戦争へ発展します。大量の死者が出ることは間違いない。罪なき人々が、殺されるのです。そうならないためにも、どうか前向きに検討を」
ロザンは知っている。人の命がかかわることで、ジークスが断れなくなることを。彼は優しすぎたのだ。
「・・・・・・わかった。だが条件をいろいろ付けさせてもらう必要がありそうだな。詳細を話してもらうとしよう」
破滅の歯車は回り始める。
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