上 下
128 / 153

第125話:厄介の種火

しおりを挟む

リジェネイター


それは生まれたころからシェリーの身に宿っていた力だった。傷を負っても再生し、かすり傷程度なら切られたそばから回復してしまう。成長に伴い強力になるその力は、今や腕一本程度数分かからず元通り再生してしまうほどだ。


このリジェネイターという能力、持っているものは数は少ないが存在するものの、その中でもシェリーが特別とされるのが、この力を他人に行使するというものだった。


領主という地位、美しい姿、そしてリジェネイターという能力。彼女が『聖女』と呼ばれ、崇めたられるのは当然の結果であり、そうなるまでさほど時間はかからなかった。



だがこれこそ、ジークスが不安視していた事態だったのだ。アトフィスの中だけで収まるのならよかったのだが、当然収まるはずもない。アトフィスの聖女の名前は、人の口を伝い、伝播していってしまった。



そしてそれは、最悪の結果を招くことになる。







シェリーの名が知れ渡ってから数年後、アトフィスの街に一人の男が訪れる。男は領主に話があると、謁見を申し出た。





「ロザン・カーティスと申します」



堀が深く、高い鼻。癖のある黒髪はクルクルとうねっておりまるで蛇のようだ。



「ようこそロザンさん、アトフィスの街へ。私に謁見を申し出たということは、観光できたわけではないのだろう?」



ジークスの言葉に、ロザンは布のカバンを取り出した。どうやら魔術の施されたカバンだったようで、男はカバンより大きなものをそこから取り出して見せる。




何かの装置のようだ。歯車や軸のようなものが付いており、まるでエンジンのようだ。



「これは永久駆動ゼンマイと呼ばれるものです」



ロザンの言葉にジークスは耳を疑う。



「何?永久駆動ゼンマイだと!?オーパーツ級の代物じゃないか。なぜそんなものを・・・いや、そもそもそれは本物なのか?」




「えぇ、勿論ですとも。後ほど使って見せましょう。そうすれば信じて頂けるはずです」





知っているなら話は早い、とロザンは言葉を続ける。



「永久駆動ゼンマイは、その絶大な力故争いの火種になりかねない。それを恐れた私どもは誰にも暴かれない隠し場所を探っていたのです。そして・・・」




「このアトフィスに、争いの種を隠すというのか?」




ずんっと空気が重くなるのを感じるロザン。




先程まで穏やかだったジークスの目にもはや客人としての視線はなく、場合によっては切り伏せる、そんな凄みを感じる眼光を放っていた。






「説明して見せろ、アトフィスにそんな厄介なものを持ち込んだ理由を」




(言葉を間違えれば、殺されるな・・・)




ロザンは冷や汗がにじむのを感じる。



「え、えぇ。まず、ゼンマイを魔術で発見されにくい場所であるというのが一つです。この街には巨大な聖なる力を宿すお方がいらっしゃる。充満する聖なる力のおかげで、ゼンマイの放つ魔力なんてものはかき消えて見えなくなりますので、遠方から発見される心配がありません」





「そしてもう一つ、この街の戦力です。仮に万が一見つかったとしても、この街の戦力に聖女の力が合わされば、一国の兵力に値するとみております。もちろんこちらからお願いする立場上、いくらでも兵力の増強を致します。彼らの食料などはわが国で補いますし、我々はアトフィスを優遇する準備ができております」





「・・・なるほど。だがしかし」




「よくお考え下さい」





ロザンはジークスの言葉を遮る。




「ほかの街に隠してばれてしまうようなことがあれば、たちまちに戦争へ発展します。大量の死者が出ることは間違いない。罪なき人々が、殺されるのです。そうならないためにも、どうか前向きに検討を」





ロザンは知っている。人の命がかかわることで、ジークスが断れなくなることを。彼は優しすぎたのだ。







「・・・・・・わかった。だが条件をいろいろ付けさせてもらう必要がありそうだな。詳細を話してもらうとしよう」






破滅の歯車は回り始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...