41 / 50
ー第40話ー
しおりを挟む
あの悲劇の日から2年。
ウララはまだ村の自分の家を離れずにいる。
否、離れられないのだ。もう何も考えたくない、変化を受け入れられない、今までのさまざまな想いや感情を奥底に閉じ込め、機械的に『生きるだけ』の生活をするためには、今の家を離れるわけにはいかなかった。
「・・・・・」
そして今日もまた、ウララは自分の持つ畑で生きるための野菜を育て続ける。
「化け物めー」
「出てけー」
外に出れば子供たちに石を投げられ続ける。大人たちはもう見向きもしない。
「・・・・・・」
ここまではいつもどおりだ。何も変わらない毎日。機械になって無心で生きていけるそんな日々。
だがそれは望んでか望まずか、闇にさす一縷の光のごとく変化の兆しが現る。
ごっ!!
「!?」
この日2年ぶりにウララは反応を見せた。
「石が・・・」
自分のすぐ横顔めがけ飛んできた石がウララに到達することなく破裂したのである。
「うわっ!化け物が反抗してきた!」
「逃げろ!」
子供たちはウララが破壊したものだと勘違いし一目散に逃げていった。状況がわからないウララの元へ、一人の少年が歩み寄っていく。
「誰・・・」
ウララが振り返ると、そこには不思議そうな顔をした少年がたっていた。長い髪を後ろで三つ編みに束ね、こちらをのぞいている。
(村の人じゃない。いや、村の人なら私に近づかない)
無表情のまま少年を見上げるウララ。
「あぁ、ごめん!なんか石投げられてるみたいだったから追払ったっていうか・・・大丈夫?怪我してないか?」
「!?」
少年が差し伸べた手をパシンと叩き、獣のような俊敏さで数歩分距離をとったウララ。
「私に近づかないでください、危険です」
「危険?そりゃまたどうして」
(何でこの人はこの見た目をまるで警戒していないの・・・)
これまた不思議そうに首をかしげる少年に、無表情のままウララは答える。
「見てわかりませんか。私は人じゃない、魔物なんです。この村の人間は誰も私に近づこうとしない。子供たちは見つければ石を投げます。あなたも近づかないほうがいいですよ」
その言葉に少年はウララの姿をじっと見つめた。
(キラキラした目。私とは違う、不屈の魂を宿した強い目・・・)
自信と誇り、火の灯った少年の目はとてもまぶしく見えた。すべてを諦め作業のように毎日を過ごす、光を失ったウララにとって、正反対のような存在だ。
「あぁ!角か!すごいね、角が生えてるんだ」
「・・・・・」
(私のことを臆することもない、何なのだろうこの人は)
「あぁ・・・え?そうなのか!」
「・・・誰と話しているんですか?」
「!ごめん、気にしないで!癖みたいなやつで・・・」
(本当に何なのだろう、この人)
「えーと、いまさらこういっても信じてもらえないかもしれないけど、別に怪しいもんじゃないんだ」
「・・・・・・」
ウララの表情は変わらない。
「なんていうか、お願いがあるんだけどさ。ちょっと・・・いや、だいぶ変な事を言っているかもしれないけど」
「お宅の扉、貸してくれないかな?」
「・・・・・・はい?」
思わず真顔で聞き返してしまったウララの反応に、少年は顔いっぱいに『やらかした』を浮かべる。
「やっぱりそういう反応になるよなぁ~、先人はどうやって扉の契約交わしてたんだよ!」
いったい誰に言っているのか、意味不明な言葉を羅列する少年。普通の人であれば気が触れていると思い逃げるか通報しそうなところだったが、少年にとって幸か不幸かウララもまた、どこか欠落していた。
「あの、私のような人外が役に立つなら・・・構いませんよ」
「え、ほんと!?」
少年がバッと顔を上げる。驚きと喜びの入り混じった子供のような明るい表情。
(表情豊かで自分の心を素直に表に出せる・・・この人は本当に、私に無いものをたくさん持っている・・・だからこそ知りたい)
「ですがひとつ、教えてください。なぜ私なのです。村にはほかにも人はいる。何も私のような異端、それも魔物に対してなぜそのようなお願いを?なぜ助けてくれたのです。どうして普通に接してくれるのですか?」
「うぉぉ・・・質問がいっぱいだな」
半ば気圧される少年だったが、その答えは即答。考えるまもなく少年はありのままを口にした。
「なんかこの村の人たち、陰湿って言うの?くだらない縄張り意識、『違う』ことや『外』のことを徹底的に嫌って排除しようって言う村八分的な醜い心が透けて見えるんだよね。俺からすれば君よりもよっぽどこいつらのほうが魔物さ。それに・・・」
「君は俺によく似ている、そんな気がする」
ずっと変わらなかった表情がかすかに動いた、そんな気がした。
「あなたと私が・・・似ている?こんなにも正反対な私たちが?あなたはいったい・・・」
ウララの言葉にはっとする少年。
「おっとそうだ!まだ名乗っていなかったな、これは失礼した!」
太陽のようにまぶしいその笑顔を、ウララはずっと忘れないだろう。
「俺はカイン・ソルロック、鍵職人だ!」
それは長いトンネルの終わりを告げる、運命とも言える出会いであった。
ウララはまだ村の自分の家を離れずにいる。
否、離れられないのだ。もう何も考えたくない、変化を受け入れられない、今までのさまざまな想いや感情を奥底に閉じ込め、機械的に『生きるだけ』の生活をするためには、今の家を離れるわけにはいかなかった。
「・・・・・」
そして今日もまた、ウララは自分の持つ畑で生きるための野菜を育て続ける。
「化け物めー」
「出てけー」
外に出れば子供たちに石を投げられ続ける。大人たちはもう見向きもしない。
「・・・・・・」
ここまではいつもどおりだ。何も変わらない毎日。機械になって無心で生きていけるそんな日々。
だがそれは望んでか望まずか、闇にさす一縷の光のごとく変化の兆しが現る。
ごっ!!
「!?」
この日2年ぶりにウララは反応を見せた。
「石が・・・」
自分のすぐ横顔めがけ飛んできた石がウララに到達することなく破裂したのである。
「うわっ!化け物が反抗してきた!」
「逃げろ!」
子供たちはウララが破壊したものだと勘違いし一目散に逃げていった。状況がわからないウララの元へ、一人の少年が歩み寄っていく。
「誰・・・」
ウララが振り返ると、そこには不思議そうな顔をした少年がたっていた。長い髪を後ろで三つ編みに束ね、こちらをのぞいている。
(村の人じゃない。いや、村の人なら私に近づかない)
無表情のまま少年を見上げるウララ。
「あぁ、ごめん!なんか石投げられてるみたいだったから追払ったっていうか・・・大丈夫?怪我してないか?」
「!?」
少年が差し伸べた手をパシンと叩き、獣のような俊敏さで数歩分距離をとったウララ。
「私に近づかないでください、危険です」
「危険?そりゃまたどうして」
(何でこの人はこの見た目をまるで警戒していないの・・・)
これまた不思議そうに首をかしげる少年に、無表情のままウララは答える。
「見てわかりませんか。私は人じゃない、魔物なんです。この村の人間は誰も私に近づこうとしない。子供たちは見つければ石を投げます。あなたも近づかないほうがいいですよ」
その言葉に少年はウララの姿をじっと見つめた。
(キラキラした目。私とは違う、不屈の魂を宿した強い目・・・)
自信と誇り、火の灯った少年の目はとてもまぶしく見えた。すべてを諦め作業のように毎日を過ごす、光を失ったウララにとって、正反対のような存在だ。
「あぁ!角か!すごいね、角が生えてるんだ」
「・・・・・」
(私のことを臆することもない、何なのだろうこの人は)
「あぁ・・・え?そうなのか!」
「・・・誰と話しているんですか?」
「!ごめん、気にしないで!癖みたいなやつで・・・」
(本当に何なのだろう、この人)
「えーと、いまさらこういっても信じてもらえないかもしれないけど、別に怪しいもんじゃないんだ」
「・・・・・・」
ウララの表情は変わらない。
「なんていうか、お願いがあるんだけどさ。ちょっと・・・いや、だいぶ変な事を言っているかもしれないけど」
「お宅の扉、貸してくれないかな?」
「・・・・・・はい?」
思わず真顔で聞き返してしまったウララの反応に、少年は顔いっぱいに『やらかした』を浮かべる。
「やっぱりそういう反応になるよなぁ~、先人はどうやって扉の契約交わしてたんだよ!」
いったい誰に言っているのか、意味不明な言葉を羅列する少年。普通の人であれば気が触れていると思い逃げるか通報しそうなところだったが、少年にとって幸か不幸かウララもまた、どこか欠落していた。
「あの、私のような人外が役に立つなら・・・構いませんよ」
「え、ほんと!?」
少年がバッと顔を上げる。驚きと喜びの入り混じった子供のような明るい表情。
(表情豊かで自分の心を素直に表に出せる・・・この人は本当に、私に無いものをたくさん持っている・・・だからこそ知りたい)
「ですがひとつ、教えてください。なぜ私なのです。村にはほかにも人はいる。何も私のような異端、それも魔物に対してなぜそのようなお願いを?なぜ助けてくれたのです。どうして普通に接してくれるのですか?」
「うぉぉ・・・質問がいっぱいだな」
半ば気圧される少年だったが、その答えは即答。考えるまもなく少年はありのままを口にした。
「なんかこの村の人たち、陰湿って言うの?くだらない縄張り意識、『違う』ことや『外』のことを徹底的に嫌って排除しようって言う村八分的な醜い心が透けて見えるんだよね。俺からすれば君よりもよっぽどこいつらのほうが魔物さ。それに・・・」
「君は俺によく似ている、そんな気がする」
ずっと変わらなかった表情がかすかに動いた、そんな気がした。
「あなたと私が・・・似ている?こんなにも正反対な私たちが?あなたはいったい・・・」
ウララの言葉にはっとする少年。
「おっとそうだ!まだ名乗っていなかったな、これは失礼した!」
太陽のようにまぶしいその笑顔を、ウララはずっと忘れないだろう。
「俺はカイン・ソルロック、鍵職人だ!」
それは長いトンネルの終わりを告げる、運命とも言える出会いであった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る
東導 号
ファンタジー
ラノベ作家志望の俺、トオル・ユウキ17歳。ある日、夢の中に謎の金髪の美少年神スパイラルが登場し、俺を強引に神の使徒とした。それどころか俺の顔が不細工で能力が低いと一方的に断言されて、昔のヒーローのように不完全な人体改造までされてしまったのだ。神の使徒となった俺に与えられた使命とは転生先の異世界において神スパイラルの信仰心を上げる事……しかし改造が中途半端な俺は、身体こそ丈夫だが飲み水を出したり、火を起こす生活魔法しか使えない。そんな無理ゲーの最中、俺はゴブリンに襲われている少女に出会う……これが竜神、悪魔、人間、エルフ……様々な種族の嫁を貰い、人間の国、古代魔法帝国の深き迷宮、謎めいた魔界、そして美男美女ばかりなエルフの国と異世界をまたにかけ、駆け巡る冒険の始まりであった。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる