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ー第32話ー
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この世界はきっとうまくバランスが取れているんだと私は思う
剣士や魔術師、勇者様のようなきらきらした人たちもいれば、召使いや生まれながらに奴隷の人、私のような魔物に生まれてきた存在みたいに日陰に生きる人たちがいて、白と黒が同じくらい拮抗しているんじゃないかな。
神様が救ってくださらないのはそういうことなんだろう。私には私の役割があるんだ。この世界のバランスを保つための、影に生きる存在、それが私。
あぁ神様。私はこれ以上のことは望みません。
人々から蔑まれ、石を投げられ、怪物といわれようと、与えられた天命に従い人ならざるものとして生涯闇を歩くことを受け入れます。決して救いなど求めはしません。
だからどうか、こんな私にも、許してほしいのです。
悪に立ち向かいみんなを救う、誰からも慕われるような、そんなヒーローになる夢を。
見させてはくれませんか?
心の奥底に鍵を掛けて仕舞い込んだ想いを解き放ってくれる人を。
待たせてはくれませんか?
ーーー―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「14歳のお誕生日おめでとう、ウララ。あなたのために今日はケーキを用意したのよ」
「ありがとうお母さん!」
街外れの農村に住む少女、ウララ・エルドラゴは母と二人で暮らしていた。栄えているとはとても言えない農村での暮らしではあったが、二人の生活は他の村人たちに比べて潤っていた。
それは家を離れ遠くで働いている父の存在があったからだ。『衛兵』の職業を持つ父は街の警備を行う師団の兵であったが、隣国との戦争が近づく中わずかな兵力でも増強をと徴兵され、二人の家族を残し戦地へと赴いている。
遠からず国を守る父の仕事に対する報酬は、娘の誕生日を祝うほどの裕福な暮らしをさせるには十分な額であった。
大好きなケーキを頬張りながら嬉しそうにするウララだったが、その顔にはどこか寂しげな色もある。
「お父さんも、一緒にケーキ食べたかったな・・・」
ウララの呟くような言葉に、母はウララの頭を優しくなでた。
父が徴兵されもう1年。やけに広く感じるこの家でウララは寂しさを募らせていた。去年は一緒に誕生日を過ごせたというのに、今年はどうして・・・
母の手の暖かさを頭に感じながら、ウララの胸の奥底からきゅぅっと悲しさがこみ上げてくるのを感じる。
「来年はきっと一緒にお祝いできるわ。お父さんも遠くでがんばっているんだもの、ウララもお父さんがいなくったってがんばらなくちゃ。ね?」
「・・・うん」
毎年食べていたお誕生日のケーキも、この日はあまり味を感じなかったことをウララは今でも覚えている。
剣士や魔術師、勇者様のようなきらきらした人たちもいれば、召使いや生まれながらに奴隷の人、私のような魔物に生まれてきた存在みたいに日陰に生きる人たちがいて、白と黒が同じくらい拮抗しているんじゃないかな。
神様が救ってくださらないのはそういうことなんだろう。私には私の役割があるんだ。この世界のバランスを保つための、影に生きる存在、それが私。
あぁ神様。私はこれ以上のことは望みません。
人々から蔑まれ、石を投げられ、怪物といわれようと、与えられた天命に従い人ならざるものとして生涯闇を歩くことを受け入れます。決して救いなど求めはしません。
だからどうか、こんな私にも、許してほしいのです。
悪に立ち向かいみんなを救う、誰からも慕われるような、そんなヒーローになる夢を。
見させてはくれませんか?
心の奥底に鍵を掛けて仕舞い込んだ想いを解き放ってくれる人を。
待たせてはくれませんか?
ーーー―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「14歳のお誕生日おめでとう、ウララ。あなたのために今日はケーキを用意したのよ」
「ありがとうお母さん!」
街外れの農村に住む少女、ウララ・エルドラゴは母と二人で暮らしていた。栄えているとはとても言えない農村での暮らしではあったが、二人の生活は他の村人たちに比べて潤っていた。
それは家を離れ遠くで働いている父の存在があったからだ。『衛兵』の職業を持つ父は街の警備を行う師団の兵であったが、隣国との戦争が近づく中わずかな兵力でも増強をと徴兵され、二人の家族を残し戦地へと赴いている。
遠からず国を守る父の仕事に対する報酬は、娘の誕生日を祝うほどの裕福な暮らしをさせるには十分な額であった。
大好きなケーキを頬張りながら嬉しそうにするウララだったが、その顔にはどこか寂しげな色もある。
「お父さんも、一緒にケーキ食べたかったな・・・」
ウララの呟くような言葉に、母はウララの頭を優しくなでた。
父が徴兵されもう1年。やけに広く感じるこの家でウララは寂しさを募らせていた。去年は一緒に誕生日を過ごせたというのに、今年はどうして・・・
母の手の暖かさを頭に感じながら、ウララの胸の奥底からきゅぅっと悲しさがこみ上げてくるのを感じる。
「来年はきっと一緒にお祝いできるわ。お父さんも遠くでがんばっているんだもの、ウララもお父さんがいなくったってがんばらなくちゃ。ね?」
「・・・うん」
毎年食べていたお誕生日のケーキも、この日はあまり味を感じなかったことをウララは今でも覚えている。
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