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ー第12話ー

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「うへぇ・・・この服洗わねぇとなぁ・・・」



インヘリット・ルームに招かれてからさほど時間はたっていないようだ。外はまだ明るく、カインが家へついた夕方ごろのまま変わらない。何より服と机を染めた血はまだ乾いていなかった。



気持ち悪さを感じ血に塗れた服を脱ぎ捨てるカイン。普通の人ならこんな血まみれの服などそのまま捨ててしまうかもしれないが、カインにはそうも行かない理由がある。




(作業机も汚しちまったし、掃除しないと・・・っていっても)




「水も止められ火も使えず。風呂どころか洗濯もできんからなぁ」



そう、Eランクの職人でまだ10代のカインが生き抜くためのお金を一人で稼ぐことなど到底不可能な話で、何を隠そう強烈な極貧生活を送っていたのだ。



その日の食べ物でさえろくに買うことができないカインの家は水道は当然のこと、ガスなどあるわけもないし薪だって買えやしなかった。



服も今着ているものが最後の一着で残りは売ってしまった。そのため極力汚さないよう気を使って生活していたのだが、今回ばかりはどうしようもない。




<随分と凄まじい生活をしているんだね。カインは歴代の中でも一番貧しいと思うよ>




「うぉお!びっくりしたぁ!!何だ、ジルか!?」




これがいわゆる『こいつ・・・直接脳内に!』というやつだ。耳から聞いているようにも感じるが、集中するとそれは内側から響く声であることがわかる。




<髪も伸ばしっぱなしのボサボサだし、服もぼろぼろ。もっと誇りある正当後継者らしい身なりじゃなきゃ格好がつかないよ?>




「そんなこと言ったって俺には金が無いんだ。どうしようもないだろ?」





<ふふっ!まぁ任せてよ!早速引き継いだ力を使う時が来たみたいだね>




「!?」



どうやらジルには何か策があるようだ。しかし鍵師と金欠にいったいどんな関係性があるというのだろう。カインは想像もつかず首をかしげた。





<空間接続術式というんだけど、ある扉とある扉をぴったりくっつけてしまうという鍵師のスキルさ。その辺の適当な扉と、契約している別の場所の扉をつなげて・・・まぁやって見たほうが早いね。はいこれ>





ジルがそういうと、カインの右手がぱっと光る。思わず開くと右手の平には青白く光る魔方陣が描かれていた。





パキパキッ



薄氷が割れるような音とともに、一本の鍵が手の中に現れる。どこにでもあるような何の変哲も無いただの鍵だ。もち手のほうにはタグがぶら下がっているが、不思議な文字で書かれており何と書かれているかは分からなかった。



<なんてことは無い。その鍵を鍵穴に刺して回すんだ。開錠する方でも施錠するほうでもいいよ、どうせ扉は開くから>




「えぇ・・・そんなことあるのかよ」




普通に考えれば、鍵の開いた扉に鍵を刺して回せば施錠される。扉は開かないはずだ。



半信半疑でカインは玄関の扉の鍵穴に鍵を刺し回してみた。


何の抵抗も無く鍵は周り、カチンと心地よい音を立てる。



カインが帰ってきたとき、この扉は施錠していない。今鍵を回したということはこれで鍵がかかったということだ。


(しかも扉を開けたら別の場所につながっているだって?そんな馬鹿な・・・)



玄関の覗き窓の向こうには、家の前にある建物の群。特に何も変わらない見慣れた風景だ。




カインはドアノブに手をかけ、くるっと手首をひねる。





「!?開いた!」





ドアが軋みながら開かれた。嗅ぎ慣れない匂いがドアの向こうから漂ってくるのを、カインは一瞬感じた。


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