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ー第5話ー
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ガチャ・・・
息を荒げ家へ入ると、扉も閉めずに部屋で一番大きな箪笥の一つを開けて、中からあるものを取り出した。
正立方体の金属製のキューブだ。ところどころ錆びているものの、きめ細かな彫刻と金細工が織りなす素晴らしい芸術品である。
何より目を引くのは、6面あるうちの1面に施された鍵穴である。外装の職人技から伺うに、恐らく相当繊細で強固な鍵であることは容易に想像できる。
瀕死のカインはそれをもって作業台に着くと、出しっぱなしのツールを使って開錠を始めた。
――――――――――――――――――――
『なぁじいさん、これなぁにー?』
『おまっ!どうやって持ち出した!鍵かけてあったろう!?』
――――――――――――――――――――
これが走馬灯という奴だろうか。カインの脳裏には、このキーボックスを手にしたときの記憶が鮮明に映し出されていた。
――――――――――――――――――――
『じいさんの真似したら開いたよー』
幼き日のカインは、両親の代わりに保護者を務める鍵師、ダグラスに自慢げにキューブを差し出した。
『おいおい、まだ職人でもないのに見様見真似で開けちまったってのかよ・・・。これでお前さんが鍵師以外の職業になったら、俺ぁこの仕事辞めるからな・・・』
呆れ、というより少し引き気味でそう答えるダグラスだったが、その顔はとても嬉しそうだ。
『えへへ、すごい?』
『あぁ、すごいさ。とんでもねぇよ!隣んちのアビルの野郎に自慢したくなるほどな!』
――――――――――――――――――――
(ふっ・・・懐かしいな)
思い出に浸りながらも、その手は動き続ける。難攻不落の鍵穴はこれまでの人生を費やして未だ開く気配がなかったというのに、今日はどんどんアイデアが湧き出てくる!
(昔は褒めてもらえるのがうれしくって、いろんなカギを開けたっけか。授与式で世界が変わるあの日まで、鍵師は俺の誇りだったってのにな・・・)
――――――――――――――――――――
『その箱、くれてやるよ。大事にしろよ?』
『え!貰っていいの!!』
ぱぁっと目を輝かせるカインの頭を、ダグラスはわしゃわしゃと豪快に撫でまわす。
『最初からお前にやるつもりだったんだ。それはお前の両親がお前に残した唯一の物。最初からお前の物だ』
『父さんと、母さんが・・・』
物心ついた時にはすでに両親がいなかったカインにとって、見知らぬ二人からの贈り物というのは何とも奇妙な感覚だった。
『そのキーボックスはとんでもない鍵が付いている。何人もの鍵師が挑戦して、ついぞ開けることができなかった。俺もな。だがお前ならできるかもしれん。その歳で見ただけで俺の技を盗んじまう天才だからな!』
にかっと笑ってカインを抱き上げるダグラス。
『カイン、俺にその箱の中身、いつか見せてくれよな』
――――――――――――――――――――
(そうか!なんで今まで気づかなかった!)
カインが鍵穴の核心に手がかかったその時だった!
「ガハッッ!!!」
バタタタタタッ
再び吐血したカインは、自身の血で服も作業台も赤く染めていく。何とか鍵穴に血が入ることは阻止したものの、もう意識が朦朧とし感覚が無くなりかけていた。
「まだ……ダメだ…あと‥‥・ちょっとでいい……だから…」
(死にたくなるような毎日だったけど、これだけが希望だった。毎日毎日来る日も鍵穴をいじって・・・開けることだけが生きがいだったんだ)
「はぁ・・・・・・はぁ・・・」
霞む視界の中、死を目前にしてカインは今までにないほど覚醒していた。もう視覚などいらない。指先の感覚だけで内部構造を把握し、脳内で忠実に再現する。もはや限られた生命力と体力を全て指先を動かすことだけに集め、最後の力を振り絞る!
(俺を育ててくれた…大切にしてくれたじいさんの夢のために・・・そして何より俺は見たい。俺の知らない両親が・・・一体俺に何を残したかったのか・・・っ!!!!!!!)
ガチンッ!!!
重く、美しく、甘美な金属音を奏で、その時はついに訪れた。
「へっ・・・・・・・・・どう・・・だ・・あけて・・・・やっ・・・・ぞ・・・・・・・・」
同時にカインの意識は闇へと飲まれ、沈んでいった。
息を荒げ家へ入ると、扉も閉めずに部屋で一番大きな箪笥の一つを開けて、中からあるものを取り出した。
正立方体の金属製のキューブだ。ところどころ錆びているものの、きめ細かな彫刻と金細工が織りなす素晴らしい芸術品である。
何より目を引くのは、6面あるうちの1面に施された鍵穴である。外装の職人技から伺うに、恐らく相当繊細で強固な鍵であることは容易に想像できる。
瀕死のカインはそれをもって作業台に着くと、出しっぱなしのツールを使って開錠を始めた。
――――――――――――――――――――
『なぁじいさん、これなぁにー?』
『おまっ!どうやって持ち出した!鍵かけてあったろう!?』
――――――――――――――――――――
これが走馬灯という奴だろうか。カインの脳裏には、このキーボックスを手にしたときの記憶が鮮明に映し出されていた。
――――――――――――――――――――
『じいさんの真似したら開いたよー』
幼き日のカインは、両親の代わりに保護者を務める鍵師、ダグラスに自慢げにキューブを差し出した。
『おいおい、まだ職人でもないのに見様見真似で開けちまったってのかよ・・・。これでお前さんが鍵師以外の職業になったら、俺ぁこの仕事辞めるからな・・・』
呆れ、というより少し引き気味でそう答えるダグラスだったが、その顔はとても嬉しそうだ。
『えへへ、すごい?』
『あぁ、すごいさ。とんでもねぇよ!隣んちのアビルの野郎に自慢したくなるほどな!』
――――――――――――――――――――
(ふっ・・・懐かしいな)
思い出に浸りながらも、その手は動き続ける。難攻不落の鍵穴はこれまでの人生を費やして未だ開く気配がなかったというのに、今日はどんどんアイデアが湧き出てくる!
(昔は褒めてもらえるのがうれしくって、いろんなカギを開けたっけか。授与式で世界が変わるあの日まで、鍵師は俺の誇りだったってのにな・・・)
――――――――――――――――――――
『その箱、くれてやるよ。大事にしろよ?』
『え!貰っていいの!!』
ぱぁっと目を輝かせるカインの頭を、ダグラスはわしゃわしゃと豪快に撫でまわす。
『最初からお前にやるつもりだったんだ。それはお前の両親がお前に残した唯一の物。最初からお前の物だ』
『父さんと、母さんが・・・』
物心ついた時にはすでに両親がいなかったカインにとって、見知らぬ二人からの贈り物というのは何とも奇妙な感覚だった。
『そのキーボックスはとんでもない鍵が付いている。何人もの鍵師が挑戦して、ついぞ開けることができなかった。俺もな。だがお前ならできるかもしれん。その歳で見ただけで俺の技を盗んじまう天才だからな!』
にかっと笑ってカインを抱き上げるダグラス。
『カイン、俺にその箱の中身、いつか見せてくれよな』
――――――――――――――――――――
(そうか!なんで今まで気づかなかった!)
カインが鍵穴の核心に手がかかったその時だった!
「ガハッッ!!!」
バタタタタタッ
再び吐血したカインは、自身の血で服も作業台も赤く染めていく。何とか鍵穴に血が入ることは阻止したものの、もう意識が朦朧とし感覚が無くなりかけていた。
「まだ……ダメだ…あと‥‥・ちょっとでいい……だから…」
(死にたくなるような毎日だったけど、これだけが希望だった。毎日毎日来る日も鍵穴をいじって・・・開けることだけが生きがいだったんだ)
「はぁ・・・・・・はぁ・・・」
霞む視界の中、死を目前にしてカインは今までにないほど覚醒していた。もう視覚などいらない。指先の感覚だけで内部構造を把握し、脳内で忠実に再現する。もはや限られた生命力と体力を全て指先を動かすことだけに集め、最後の力を振り絞る!
(俺を育ててくれた…大切にしてくれたじいさんの夢のために・・・そして何より俺は見たい。俺の知らない両親が・・・一体俺に何を残したかったのか・・・っ!!!!!!!)
ガチンッ!!!
重く、美しく、甘美な金属音を奏で、その時はついに訪れた。
「へっ・・・・・・・・・どう・・・だ・・あけて・・・・やっ・・・・ぞ・・・・・・・・」
同時にカインの意識は闇へと飲まれ、沈んでいった。
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