天下無双の鍵使いー引き継がれるものー【挿絵付】

ー第4話ー

職業には当然人気・不人気が存在する。戦闘に特化した、派手で名を揚げやすい『戦闘職』に属する職業は人気が高く、一方で商人や料理人、大工といった生活水準向上に特化している『生産職』はどちらかというと人気は落ち目である。


国は職を平等に扱い、尊重することを説いてはいるが強制力は全くなく、今日日当然のようにこれらの職業はランク分けがされはっきりと区別している。


『ジョブランク』と呼ばれるそれは、その職業の人気度や稀少度、また価値度などを総合的に判定し与えられるランクで、国が抑制を呼び掛けている手前、公式なランクというものは存在しないが国中で浸透している水準が基礎となっている。


最高のSランクから最低のEランクまで区分けられたそのランクは、いわば人生のステータスに他ならない。15歳にして神職授与を受けたその日から、無条件に地位や名声を得られる者と、理不尽に虐げられ暗がりを生きることを強いられるものが現れるのだ。


そして昨今、この職業システムにより発展した技術により、家屋や施設の鍵など魔導工場で量産できてしまう。当然カインのような『鍵師』は人気もその価値も下がり続ける一方で・・・。



「はっはははぁ！思い知ったか！Ｅランクのカイン君！」



そのジョブランクはすでにEランク最低ランクにまで落ちぶれていた。




「がふぅっ！！」



数十分もの間、マルスに殴られ続けたカインはついに吐血しその場に倒れた。



「どうだマルス、ちょっとは経験値になったか？」




「いやダメだ！こいつじゃスライムほどの経験にもなりゃしねぇや！！」




ソリッズ一行は倒れたカインに目もくれず、ご機嫌でその場を去っていった。



「ハァー・・ハァ・・ぐっ！！」




震える体で何とか起き上がるカイン。




（うそ・・だろ、手が冷たい・・・。ボーっとして力が入らない。寒い・・・これ、やばいんじゃないか・・・）




ギルドに認められたマルスの『戦士』としての職熟練度は、本人が思う以上に身体的恩恵を与えていた。普段と変わらないマルスの暴行も、今日ばかりは勝手が違う。カインは深刻な体のダメージに、本能が自らの背後に迫る「死」の存在を確かに認知していた。





（死・・・。死ぬのか、俺は・・・）




ずるっ！



膝につく手が滑る。辛うじて踏みとどまったその足も震え、普段通り歩くことすらままならない。




（これが・・・Eランクの最期ってか。惨めだなぁ・・・）




冷たくなたった四肢を必死の形相で動かして、何とか前へ進む。


（物心ついた時から両親はいない。身元引受人の鍵師のじいさんも2年前に逝っちまった。親友だって離れていった。こんなガキが一人で生きていくにはこんな職業Eランクじゃ無理だったんだ・・・）




再び吐血するカイン。足元には赤い水たまりができる。内臓が破裂してしまっているのかもしれない。




（やっぱ人を救ってくれる神様なんていないんだなぁ。生まれたときから良いことなんて一つもなかった。その脇で無条件に幸福を噛み締める奴がいる。クソみてぇな世界だ。こんな世界なら死んでしまった方がいいのかもしれねぇ）





カインは決死の思いで辿り着いた自分の家のドアノブに手をかけた。




（でも死ぬなら最期にあれだけ開けないとな。じゃなきゃ死んでも死にきれねぇ）