堕ちる

はる

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芽吹く傷

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春が初めて性を思い知ったのは、小学校1年生の初夏だった。学校が休みの日、春は保育園からの友達と、その妹と一緒に団地内の公園で遊んでいた。
春はキュロットスカートの裾をなびかせながらブランコを高々と立ち漕ぎしていた。
春は運動が得意であったから、ブランコを漕ぎながらその上でジャンプしたり、方向転換をして、かなりお転婆に遊んでいた。それは、普段ひた隠しにしている感情をアクロバットな動きで発散しているようだった。だからと言ってそれを誰に自慢するわけでもなく、黙々とブランコを漕いでいた。

ふと、公園の横を2人の男性が通りかかった。男性がチラリとこちらをみたがすぐに公園から離れたので、春はあまり気に留めていなかった。
そもそも、春の住んでいた団地は低所得者の集まりだった。住民がお互いが助け合い生きていた地域だった。子ども達にも警戒心というものはなかったし、まだ昭和が色濃く残る人の関わりを残していた。
当然春もその男達に特別警戒する事も無かった。すると、男達が再び公園に戻ってきて、春に話しかけた。
「ねぇ、この団地のエレベーターホールはどこかな?」
確かに公園の横の建物はわかりにくい位置にエレベーターホールがあった。小道に入らないと辿りつけない。
春は口で説明したが、男達は
「それって、どこの道を通っていけば良いのかな?案内してもらっても良い?」
と聞き返す。友達もそれを聞いていて
「良いよ!」
と答え、春も一緒に頷いた。
春と友達とその妹は3人でエレベーターホールまで案内した。すると、男達は再び聞いた。
「階段はどこにあるの?」
「こっちだよ。」
3人は階段の前まで行き、上を指差した。男達は顔を見合わせた。
「ありがとう!お礼に君達の写真を撮らせてよ。ちょっとそこに並んで。」
男達は矢継ぎ早に言葉をかけ、春達を階段の上に並ばせた。春は少し恐怖を覚えた。
「撮らなくて良いです。」
「ちょっと撮るだけだから。君だけでも良いよ。お友達は戻って良いよ。」
1人の男が春の腕を掴んだ。もう1人の男は友達とその妹を階段の下に連れて行ってしまった。春は逃げようとした。しかし、男は春の腕を強く掴んだ。春は恐怖で声が出なかった。友達を連れて行ったもう1人の男が戻ってきた。
「ほら、写真撮ってあげるから、スカート脱いでみよう。」
1人の男がカメラを構え、もう1人の男がキュロットに手をかけた。春は無言で首を横に振った。
「じゃあ洋服めくってみて。」
男達は容赦なかった。春は必死で服を抑えた。
その時、階段に足音が響いた。男達はふっと警戒し、カメラを下ろした。黙って音に耳をすませる男達。足音は徐々に近づいてくる。他の誰かの足が少し見えた気がした。
春は放たれたパチンコ玉の様に男の手を振り切って、階段を飛び降りた。団地を出ると商店街を通り抜け、めちゃくちゃなコースを走って、自分の家のある団地の、いつもは使わない階段を上がり自分の家がない階でエレベーターに乗り、また自分の家のない階で降りて、そこから階段を再び使って家へ走り、ドアから飛び込んだ。両親が仕事でいなかったので、春は鍵とチェーンをかけ、靴を部屋の中まで持って入って、家の押入れの中に入って小さく丸まった。
怖かった。ひたすら怖かったのだ。
春は生まれて初めて、死の恐怖を知った。
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