ふたりの距離

春夏

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3. 2人の距離

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6年の時間と500Kmの距離は結局のところ2人の互いへの欲を消すことはできなかった。求めても求めても、果てても果てても足りなかった。仕事を先に終えた相手のアパートに帰り、用意された夕食をとってベッドになだれ込む。吐き出した後のピロートークなど獣には不必要なものだ。事が終わればシャワーを浴びてベッドを整え、痕跡を消して自分の家に帰る。それが2人の新しい距離だ。愛の言葉を口にすることもそれを求めることも許されはしないのだ。

社内イントラのスケジュールに記された《事業部懇親会19時》の文字を眺め町田は思いにふける。今夜は遼は来ないだろう。もちろんそれを詰るつもりもなければ詰る資格もない。同様に自分の行動を遼に報告する必要もなければ制限されるいわれもない。たまには実家に顔を出そうか。明日は土曜日だ、そのまま泊まってしまおう。

懇親会という名の単なる飲み会で女子社員に聞かれる。「法務部の町田さんと仲いいんですね。この前、駅まで歩いてるの見かけたから」「高校の時、予備校が一緒だったんです」「あら、そうなんですか。あの人、結構人気あるんですよ。あなたもですけど」「そうなんですか、嬉しいなぁ。町田も喜びますよ」…そう、これでいい。町田は俺のものじゃないし、俺は町田のものじゃない。2人で朝を迎えたい、と湧き上がる気持ちをビールで流し込んだ。
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