ふたりの距離

1. side 町田

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結局、想いを伝えることはできなかった。

週末の予備校で会うだけのたいして知りもしないこの男に、唐突に抱かれたいと思ってしまったのは何がきっかけだったのかすら忘れてしまった。

超進学校と呼ばれる男子校に通う僕の周囲には、スペックの高い男がいくらでもいた。アイツより顔がいいとか、アイツより頭がいいとか、アイツより（たぶん）金持ちだとか。その誰にも抱かれたいだなんて思わないどころかスキンシップすら苦手だというのに、この男にだけは僕の全てを奪ってほしいと切望してしまうのだ。

そんな自分が恐ろしくて僕は志望校を変えた。もし同じ大学で時折顔を合わせるようなことになったら自分を抑えることなどできないと思ったのだ。僕らは首尾よく第一志望に合格し、500Km離れて大学生活を送ることになった。この物理的な距離が僕の目を覚ましてくれるはずだと信じて。

「じゃあな町田。もう会うことないかもしれないけど元気で」「うん。遼も」合格発表の翌日、予備校に報告に来た僕と遼の会話はこれだけだった。手を振って互いの友人の輪に戻る。これ以上ここにいたら泣いてしまいそうで、僕は急いで教室をあとにした。