確率は100

11. いざアインネートへ

忘れちゃったの？

誰かが俺を撫でてくれてる。シキくん？俺、びっくりしたよ。意地悪しないでよ。「目が覚めた？」…シキくんじゃない。シキくんじゃないんだ。「ヒカリ君、驚いたでしょう。リューはどうやら虫にやられたようね」「虫…？」「フィアナの周りに生息する虫なんだけど、それに刺されると、１番大事な人のことだけすっかり忘れてしまうの。放っておいても半年くらいで治るんだけど…、その間に２人の関係が変わってしまうこともあるのよ。思い出した時には大事な人を失っている。だから失い虫、って呼ばれてる」指の先まで冷えていくのを感じる。シキくんが俺を忘れてるあいだに他の誰かを好きになったら？シキくんに守ってもらえない俺が死んじゃったら？嫌だ嫌だ、と泣く俺を奥さんが抱きしめてくれる。

「大丈夫、薬の作り方はわかっているの。フィアナの薬師が協力して見つけだしたのよ。この薬の材料はギルドが管理しているんだけど足りないものがあるの。リューを指名して採集依頼を出すわ、そうすれば見つかるまでリューはここに留まる。そして完成した薬を飲ませれば元に戻るわ」「…違う…きっとほんとは…」俺はお世話してもらうばっかりで、シキくん面倒くさいよね。きっと俺のこと忘れたままの方がシキくんは自由になれる。俺じゃない人ならいいママになれる。「…俺のこと忘れたかったんだ…」自分で発した言葉の恐ろしさにまた気を失った。

「俺、あの住み込みさんと同室かいな？部屋に荷物あったで。いや、俺はええけどあのコは嫌やろ。俺、宿に移ろか？」妻がヒカリ君を宥めている間、僕はリューの相手をしていた。「いや、大丈夫。ヒカリ君の部屋を移すから、リューはそのままで」「ヒカリ君、言うねんな。顔も名前も可愛ええわ。アンタ方のあっちの遊び相手やないやろな？あのコにあんなことさせたらあかんやろ…俺がシたいわ…」リュー…。今までのヒカリ君のことを忘れてしまったのに、今のヒカリ君が気になってるのか…。何があっても惹かれ合う、運命の相手。「リュー、採集をお願いしていいかい？急ぎなんだ」