紅碧の日々

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店に出ているだけの祖父に代わり、この１年の実質的な店の経営者は碧であった。学生の頃から店を手伝っていた碧にとって、この家を相続するということは店を続けることと同義である。必要な手続きを済ませるとともに水回りや調度品を交換して、碧の店の準備が整った。

朝は７時から９時、昼は10時から夕方の４時まで。ワンプレートのモーニングとランチ、ドリンクとケーキにアイス。メニューはこれだけだ。毎朝５時に起きて前夜に仕込んでおいたパンを焼きながらモーニングのサラダとスープを用意する。これに卵やウィンナーを選んでもらって碧のモーニングの出来上がりだ。朝の客の相手をしながらランチを仕込む。こちらはモーニングと同じワンプレートかご飯にみそ汁、簡単な和惣菜を２つつけた和食ランチだ。そのころには近所の商店街から肉や野菜、ケーキが届き昼営業が始まる。

手が空けば店を見渡せる位置に置いた机に向かい話の続きを考える。夜にまとまった時間が取れる碧にとって、店の営業はまたとない人間観察の場でもあった。たまに和食ランチを食べに来るあのじいちゃんは、若い頃は家庭を顧みず働いて今では邪魔者扱いされとるんやろか。それとも大事にしとった奥さん亡くして寂しく１人暮らししとんのやろか。そっちのおばちゃんたちは子ども学校に行かせた気の合うママ友の集まりやな。楽しそうにダンナの愚痴言い合っとるわ。儲けは少なくても、この小さな店が碧の生活を支えている。