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2. 倫27歳 真希15歳
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倫と真希はお互いを知らなすぎた。話すことはいくらでもある。店番を任せられるうちに作っておいた夕飯を食べながらいろんなことを話す。「嫌いなモンとかあるんか」「ううん、お兄さんのご飯は全部おいしい」「そか。そら作り甲斐があるわ」「僕も手伝うよ?」「ん、そのうちな。学校始まったら勉強せなあかんやろ」「あぅ!」「ハハハ、勉強は嫌いか」「嫌いじゃないけどさ、できないかもしれないじゃん」「そしたら教えたるよ。参観日とか行くよって、ちゃんと伝えてくれなあかんよ」「来てくれる?ホント?」「あたりまえや。俺も父ちゃんが来てくれよった」「お兄さんのお母さんは?」
「母ちゃんも1回だけ来たことあるけど…俺の母ちゃんはな、変わった人やったから」「どこにいるの?」「知らんなあ。中学に入ってからは1度も会うたことないし」「…僕とおなじ…」「マサとはちゃうやろ。マサの母ちゃん、マサに会わせてて言うとったよ」「…会いにきてくれるかな」「あたりまえや」倫は自分の言葉が嘘にならないことを願う。「さ、片付けて風呂入らな。子どもは早寝早起きやぞ」
夜、真希の部屋から微かな泣き声がすることを倫は知っている。抱きしめて大丈夫だと言ってやりたいが、自分で乗り越えるべきことだと拳を握る。俺とは違う。母ちゃんに育ててさえもらえなかった俺とは。父ちゃんが俺にしてくれたようにマサに心を注いでやることが俺のできる唯一のことや、と倫は拳に力を込めた。
「母ちゃんも1回だけ来たことあるけど…俺の母ちゃんはな、変わった人やったから」「どこにいるの?」「知らんなあ。中学に入ってからは1度も会うたことないし」「…僕とおなじ…」「マサとはちゃうやろ。マサの母ちゃん、マサに会わせてて言うとったよ」「…会いにきてくれるかな」「あたりまえや」倫は自分の言葉が嘘にならないことを願う。「さ、片付けて風呂入らな。子どもは早寝早起きやぞ」
夜、真希の部屋から微かな泣き声がすることを倫は知っている。抱きしめて大丈夫だと言ってやりたいが、自分で乗り越えるべきことだと拳を握る。俺とは違う。母ちゃんに育ててさえもらえなかった俺とは。父ちゃんが俺にしてくれたようにマサに心を注いでやることが俺のできる唯一のことや、と倫は拳に力を込めた。
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