二人暮らし

春夏

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1. 倫24歳 真希12歳

1-3

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倫が仕入れも売り上げの管理もできるようになった頃、父が病に倒れた。三月ほど入院して倫に別れの覚悟をする時間をくれた父の[最後は家に帰りたい]という願いを断る選択肢はない。店の見える居間の扉を細く開けて倫の働きぶりを見守った父が眠るように逝って、24歳の倫は一人で春を迎えた。

倫はもう父を恋しがって泣くような年ではない。それでも店を閉めたあとは父の写真に話しかけてしまう。「今日はよく売れたで」「水が冷たなってきたわ」黙って待っていれば返事が返ってくるような気がして、物言わぬ写真を見つめる日々。そんな倫を心配して友人たちが声を掛ける。飲んで騒いで笑って…家で泣く倫は少し痩せた。

倫は花が好きだ。なるべく廃棄しなくていいように仕入れているつもりだが、客頼りのこの商売、うまくいかない時もある。そんな花を倫は墓に供える。父が祖父母たちの仲間入りをしたばかりのこの墓に花が絶えることはない。仕入れに出かける前のまだ早い時間、倫が見たのは供花に語りかける真希であった。

「ここでなにしとんねん」倫の声に真希の背中が固まる。「こんな朝早よからこんなとこ居ったらおかしいやろ」「…ごめんなさい…」「いや、怒っとるわけちゃうけど」「…いつもお花いっぱいあるから…」「…俺のな、父ちゃんの墓や。うちは花屋やねん。捨てたないからな、ここに持ってくるんよ」真希が倫の持つ花を見て何かを言いかけて黙り込んだ。「なんやの?」「…僕のお父さんのお墓…お花あげたい」「…どこや」真希の目が輝く。「こっち!」手を引かれ案内された墓には枯れた樒が寂しく揺れていた。
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