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1. 倫24歳 真希12歳
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大学からの帰り道、急に空が暗くなり雷が響く。近頃はこんな天気が多い。家まであと5分。間に合うやろか、倫はとりあえず走り出す。途中の公園でぼんやりとベンチに座る子どもを見かけ思わず声をかける。
「そんなとこに居ったら雨に降られるで!さっさと帰らな」駆け寄った倫に驚いたように一瞬顔を上げたが、また下を向いて「帰ると怒られるから」と小さく答える。ポツン、と降り出した雨はすぐに地面を叩き出し、倫は心の中で舌打ちして折りたたみ傘を開いた。
「お兄さん濡れちゃうよ」声が聞き取れないほどの雨。「お前かて濡れてまうやろ」雨雲が過ぎ去るまでの20分、二人は黙って座っていた。
「マサ!」公園の入口からの呼び声に倫の気がとられた隙に少年は走り去る。「また逃げられた…あなたは?」「いや、俺は怪しいモンちゃうよ!あの子が濡れてまう思て…」「そうですか。まぁとりあえず交番まで」…今日は厄日や、倫は仕方なくついて行った。
「なるほど。じゃお礼を言わなきゃな。マサが濡れないように気遣ってくれてありがとう」30歳くらいのまだ若い警官はそう言って倫に頭を下げた。「いや、礼を言われるようなことやないけど……あの子、帰ったら怒られる、て」「…母親と二人暮らしなんだけどね。オトコが来ると外に出されるらしくて。子どもがいるとできないことをするんだろ」「…」「真希に新しい父親探してやってんだ、って」「…せやけど…」「オトコが来てないときは結構仲良く暮らしてるんだけどね…」
曖昧にあとを濁されて、倫はそれ以上立ち入ってはいけない話だと気づく。知ったところで倫に何ができるわけでもない。真希の新しい父親になってやれるわけでもない。「ほな、俺はこれで」モヤモヤした気持ちを抱えたまま交番をあとにした。
次に倫が真希を見かけたのは夏も終わりかけた夕方。あの日と同じように夕立が降りそうな空の下、「母さん、ただいま!」と家に駆け込む後ろ姿がなぜか無性に愛しかった。
「そんなとこに居ったら雨に降られるで!さっさと帰らな」駆け寄った倫に驚いたように一瞬顔を上げたが、また下を向いて「帰ると怒られるから」と小さく答える。ポツン、と降り出した雨はすぐに地面を叩き出し、倫は心の中で舌打ちして折りたたみ傘を開いた。
「お兄さん濡れちゃうよ」声が聞き取れないほどの雨。「お前かて濡れてまうやろ」雨雲が過ぎ去るまでの20分、二人は黙って座っていた。
「マサ!」公園の入口からの呼び声に倫の気がとられた隙に少年は走り去る。「また逃げられた…あなたは?」「いや、俺は怪しいモンちゃうよ!あの子が濡れてまう思て…」「そうですか。まぁとりあえず交番まで」…今日は厄日や、倫は仕方なくついて行った。
「なるほど。じゃお礼を言わなきゃな。マサが濡れないように気遣ってくれてありがとう」30歳くらいのまだ若い警官はそう言って倫に頭を下げた。「いや、礼を言われるようなことやないけど……あの子、帰ったら怒られる、て」「…母親と二人暮らしなんだけどね。オトコが来ると外に出されるらしくて。子どもがいるとできないことをするんだろ」「…」「真希に新しい父親探してやってんだ、って」「…せやけど…」「オトコが来てないときは結構仲良く暮らしてるんだけどね…」
曖昧にあとを濁されて、倫はそれ以上立ち入ってはいけない話だと気づく。知ったところで倫に何ができるわけでもない。真希の新しい父親になってやれるわけでもない。「ほな、俺はこれで」モヤモヤした気持ちを抱えたまま交番をあとにした。
次に倫が真希を見かけたのは夏も終わりかけた夕方。あの日と同じように夕立が降りそうな空の下、「母さん、ただいま!」と家に駆け込む後ろ姿がなぜか無性に愛しかった。
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