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夜明けの幻想曲 3章 救国の旗手
4.5 シークレット
しおりを挟む「こんな気持ちの良い風が吹くところで修行なんて雅だな」
「絵になるのは分かる」
「そんなことを話に来たのではないのでしょう?」
クロウとセラフィの軽口を一蹴する。
ソフィアは剣を鞘に収め、二人に向き直った。
ソフィアにとって気まずい相手ではある。何しろ8年も逃げ続けてきた人物でもあるのだから。
「それもそうだね、いつ殿下達がいらっしゃっても不思議ではない。聞くべきところはさっさと聞くことにしよう……その前に」
セラフィがソフィアの目を見つめる。爛々と輝く、意志の強い目だ。
(彼は変わらない。昔からこの目は苦手だ)
ソフィアの表情に変化はない。心は僅かに揺れ動いても、外に出すことはしない。そのように努める。
「君が無事で本当に良かった。それだけは言わせてくれ」
「えぇ。私は平気よ。他のみんなはどうなの?」
「僕らはこの通り。他のみんなは全員の無事は把握出来ていないのが現状。ヴェレーノ、リコの安否が不明。ケセラは、その……」
「……そう」
ソフィアは目を伏せる。最後にケセラを見たのは8年前だ。大人しくて心優しい少女だった。セルペンスの後ろを控えめに着いていって、脱出にも積極的だった彼女の声を思い出すことはできない。静かに祈りを捧げることしか、今ソフィアに出来ることはない。
「他のみんなは無事だよ。ピンピンしている……かは謎だけど。さぁ、次は僕からだ。単刀直入に聞くよ」
クロウが目をすぅと細めて質問するセラフィと、ひっそり手を握りしめたソフィアを観察する。
「“レガリア”は今どうしている?」
(やっぱりそうきたか)
ソフィアはため息をついて、桜色の唇を開いた。誤魔化すことはできない。誤魔化したところで意味はない。
「眠っているわ」
「眠って?」
「えぇ。言葉の通りよ。貴方も知っているでしょう?彼の持つ力の大きさを」
セラフィは頷く。
「僕らが“神のゆりかご”から脱出出来たのも、レガリアの協力があってこそだったからね。結局ソフィア以外の前に姿を現してはくれなかったけど。今思い出しても恐ろしいよ。空間をねじ曲げたり?僕らを転移させたり?他にもあったね。明らかに僕たちの誰もが持っていなかった力だ。万能って言っても過言ではない気がする。テラがどうやって押さえつけていたんだろう、と疑問に思うくらいには」
「そう。そんな力に人間が耐えられると思う?私たちの誰もがある力と引き換えに代償を背負っているのよ、レガリアにも負荷がかかっているに決まっている」
「なるほど、それで代償として眠りについていると?」
「そういうこと」
ふむ、と腕を組んでセラフィは考える。
「その場所は?」
「……」
次に飛んできた質問にソフィアは言葉に詰まる。
まさかマグナロアにまで二人が追ってくるとは思っていなかったのだ。返答を用意しているはずもない。
「じゃあ、聞き方を変えようか」
セラフィの眼光が強くなる。
「レイ君。彼こそがレガリアの眠っている場所そのものでは?」
突如レイの名前が出され、ソフィアは驚きに目を丸くした。そのことをセラフィは訝しんだのか、更に言葉を続ける。
「彼は人に認知されていない地で暮らしていたと言っていた。人の寄らない地に精霊が近づくことはあまりないからね。ソフィア、君はレイ君を隠していたかったんじゃないのか?だからこそ地下遺跡まで追って来た……とか」
ソフィアはゆるゆると首を振った。そしてセラフィの言うことをはっきりと否定する。
「いいえ。レイは何の力も代償もない、ただの人間よ。イミタシアではないわ。私とあの子は、ゆりかごから脱出した後に出会ったのよ。ひとりぼっちでいたから……放っておけなくて」
「クロウ」
「嘘じゃない」
ちらり、とセラフィがクロウを見やる。クロウは腕を組みつつ簡潔に答える。いつも笑みを浮かべているクロウだが、今は気を張っているようだ。
その姿を見てセラフィの表情が和らいだ。先ほどまでの緊張感を含んだ雰囲気が一転して、ソフィアはこっそりと息をついた。確かに嘘はついていないのだが、セラフィと向き合うと緊張してしまう。
「ならいいんだ。レイ君にはお世話になってるからね、主にシャルロットが。僕自身も気に入ってるし」
「やっぱり、あの子は貴方の妹さんだったのね。似ていると思ったわ」
「そうそう、やっと会えたんだ。良い子に育ってくれていて安心したよ」
白金の髪を持つ少女を思い浮かべる。髪色こそ違うものの、確かに似ている。レイが気を失ったシャルロットを連れてきたときもセラフィのことを思い出したほどだ。まだ精霊に捕らわれていた頃散々話を聞かされていたことも思い出す。「僕の妹は生きていたら世界一かわいいに違いない」と。実際に生きていて再会もできたのだからソフィアの目の前にいる彼は幸せ者だ。
うんうん、と頷いて妹について語り出そうとするセラフィの頭をクロウがはたく。イテ、と小さな声が聞こえたような気がしたがソフィアは気にしないことにした。
「おい、そろそろ来るんじゃないか?」
「あ~語る時間が欲しい」
「後でフェリクスにでも語ってろ」
「逃げも隠れもしないわ。話がしたいのなら同行者を連れてまた来るのね」
そう言ってソフィアは二人に背を向けた。
夕日が眩しい。ゆっくり、ゆっくりと陽が沈む。もう彼等に話すことはない、と口を閉ざす。二人分の足音が遠ざかっていくのを聞き、彼女は鞘から剣を抜いた。また無心に戻れるように祈りつつ。
(そういえば)
ソフィアはふと気付いた。
(結局場所について深くは追求してこないのね)
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