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2 最初に会ったのは。
しおりを挟むでも、正直奇跡みたいなものじゃん。男でオメガで。これでボトムの方を希望するっていうパーセンテージってどれくらいなんだろう。
結構抵抗ある人もいるみたいだから、こうやって同じ学区になるように集めることになったのかもしれない。
自分の性を固定化して考えないで的な教育を受けた。
好きなものは好きと言おうね! というような教育だ。
オメガの精神的な理由での自死する確率が高いのもあるのだろう。
性的指向とは別に発情期なんてあるから、余計ややこしくなる。
そんなオメガは挿入されて精を出されれば孕む。発情期にアルファに出されたら100%孕む。
男でも女でも。
そしてアルファはその逆。孕ませることができる。相手が孕む性なら男でも女でも。
精子に強い弱いがあるとするのなら、強いのだろう。こっちもあんまり数は多くない。
体も強いし、賢いし、大企業のお偉いさんは大抵アルファじゃないかって言われている。因みに男女比率はそこまで偏っていない。
自分で自慢するタイプのアルファには男が多い感じがする。これは俺の偏見、もとい経験。
女の人でアルファな人はしたたかで強いイメージがある。これも俺の偏見、もとい経験。
学校の先生でそういう人がいたからそう思うだけ。
女性でアルファでも、男女差別が絡んできてややこしいんだよね的なことを担任が言っていた。
町子先生。深町千代子略して町子先生。
どんなバース性にも性別にもそれなりに葛藤があって、どっかの誰かはしんどって疲れて。たぶん、今現在進行形で溜息吐いてるんだよね。と職員室で結構大きな声で言っていた。
後は、そのどちらでもないベータ。まあ、このベータの中でもどちらかと言えばアルファ寄りの因子を持っていたり、オメガ寄りの因子を持っていたり、友人の言を借りるなら全人類の平均もいると思う。
みんな何かしらの揺らぎの中で、自分というものを自分で考えて確立していくものだ。
うんうん、それは異世界でも変わりないのかもしれないね。
さっきお風呂から戻って来たアルファは問答無用でご飯中だった俺の背後から襲ってきたし、ご飯吐き出しそうになる感じで貫かれているけれど、そう思うよ。
俺は発情気が終わったのに相手が終わっていないことが、今世、多々ある。ちょっとした平均からずれているのだろう。
そうそう、オメガには発情期がある。
まさについちょっと前までの俺、現在進行中のこれ、だが。浅ましくも中に子種が欲しいという孕む性としての性がフェロモンを出して孕ませてくれるものを引き寄せるのだ。
余りに強いとベータというどちらにも属さない性のものも引き寄せることがある。
そして、それに強く引き付けられるのがアルファだ。
同じくアルファも強いフェロモンを出す。
それにオメガが反応してしまうこともしばしば。
そして、アルファはオメガを番にする。そうして一生を縛り付けることができる。
うなじを噛まれたオメガは、その後一生誰とも番えない。どれだけひどい相手でも、相手の慈悲がないと発情期は苦しいものになる。
前世はそこからほんの少し救いがあったが、こちらではないらしい。
そして、これまた例外がある。
この石造りの牢屋のような部屋の中で、貴族の男に抱かれて、うなじに噛みつかれて、名前を囁かれても申し訳ないが忘れてしまう俺だ。
何かの特典でもチートでもない。
ゴロンと手を頭の下に置いて、足を膝の上にのせて寝転がる。
だって発情期と言って思い出すのは、あいつの顔だけ。
何度も何度も俺の名前を呼んで、俺が名前を呼ぶと嬉しそうに笑うお前のことだよ。ばーか。
こう振り返ってみると俺の前世はそこそこ幸せだったんじゃないかと思う。だって、発情期明けのセックスしてる最中と終わりに思い出すのは、俺の前世のこと。
「人間って、バカだなあ」
生まれ変わったんだと思ったとき、前の時の俺を直ぐに思い出した。記憶が途切れて、目が覚めたら今の俺だった。
その時は思った。前の記憶なんか覚えていなくていいのにって。
全然、まったく、これっぽっちも幸せじゃなかったんだからって。
転生というか、スライドしたって感じだったけど。
目が覚めたあの瞬間も思ったから。あの最後の時、お前といられなかったからって不幸せだと思った。
でも、今の俺になってみて思う。
前の時の俺。お前は結構、そこそこ、幸せだったんじゃないかなぁ。
最初に会ったのは、バイト先のコンビニ。
定時制高校に通っていた俺はそこでまあまあの頻度で彼に会った。
背が高くて、いつも友達数人とやってきては楽しそうに買い物を済ます。
学校が多い場所なので、恐らくすぐ近くの大学生だろうなと思いながら接客をしていた。
それがある日、大慌てでやってきた。値札なんか見ずにシャーペンと消しゴムとシャーペンの芯をレジに置いた。
食べ物以外なんて珍しいなと思い、値段を告げるとやけに慌てていて。
バキバキに表面の割れたスマホを握りしめている。
ペイができないとつぶやいていた。
つい、「現金は?」と訊ねると、その手があったかって大きな声で財布を引っ張り出した。
「78円……」
78円じゃ、この文房具セットは購入できない。
で、恐らく今日から大学も考査期間なのだろうと2年もバイトしていた俺は把握しているわけで、しかももうすぐ始まるだろうなと思ったら泣きそうな彼と目が合った。
「あの、いつもの友達は?」
つい、おせっかいで聞くと悲しそうに。
「スマホが……。や、スイマセン。これ戻してきます」
とさっきまで急いでいたのにもかかわらず、肩を落としてとぼとぼ、のろのろ歩くものだから、俺は急いで控室に戻ってロッカーを開け自分の筆箱からさっきの文房具セットと同じものを取り出す。諦めが早いぞ。青年。
自動ドアの開く音がして俺も急いで、彼のもとへ急いだ。
「あの!」
彼が振り向いたので、その手に押し付けるように文房具セットを渡す。
「これ、俺のなんで使ってください」
「え、でも」
「中学生の時から使ってるやつなんで、なくなっても気になんないで。早く、おにいさん!」
彼の手にそれらのセットを押し込めて、背中を押して自動ドアを潜り抜けさせるとチャイムの音が小さく聞こえてきた。
彼は慌ててお礼はするから! と去って行った。
俺は次のお客さんが来ていたので手だけ挙げて振り返らずに接客に戻った。
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