確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

恋とはどんなものなのか、よく知らない15

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「というわけで、そろそろ課長がこちらに来るか」
「うおおおい! 待て待て、何が、というわけ、なんだ?」
「ちょっと、師匠。静かにしてもらえますか? ヒカリ寝ちゃったんで」


 スピカが首だけを回してこちらをすごい強い視線で睨む。さっきまで不埒なことをしようとしていたことなんてなかったかのように。


「だから、ヒカリが呪術にかかっているかもしれなくて、助力を頼んだら準備をしたら行くからと」
「まてまてまて、でも、居場所は伝えてないよな?」
「さっき」




 ダーナーがうおおおい、とまた叫び、セイリオスの口を塞いだ。「じゃあ、今すぐセイリオス君の家に帰りましょうね。それがいいよ、俺も道中ついていってや」のところでチャイムが鳴った。



 こんなアパートに夜中に尋ねてくるやつはダーナーからしたらもうこの現場に揃っている。


 嫌な汗が流れる。

 ダーナーの家はいつでもうちの子たちが来られるように、なるべくきれいにしている。


 調度品も派手ではないが、それなりに凝ったものにして、使い勝手のいいものなどを選んでいる。
 やっぱり手触り重視だろうとこだわりぬいた一品なのでお値段はお高めだが、赤ん坊が来ても安心な設計で角が丸い。


 だから、この家には招きたい人はもうすでに満員で。



 セイリオスがダーナーの方を見て、一瞬、口を動かしてやめた。



「セイリオスちゃん。言いたいことあるなら言って?」
「あの、この家に来た時にカシオさんに頼んで、俺の家に魔紙飛ばしてもらっています。ダーナーさんの家にヒカリとスピカといますって。うちの働く人形たちに伝言的な奴で」

「おまえー、あいつ、お前のこととなると優先順位がバカ高いんだぞ! こら! あ、カシオ待て!」





 カシオが再び鳴るチャイムに応答するために廊下へ出ていったのを、目ざとく見つけ、止めに行こうと追いかけるがそこまで大きな家ではない。あっという間に玄関だ。



「やあやあやあ、こんばんは! 夜分遅くに失礼するね? あれ、朝かな? もう朝だからおはようかな。朝早くに失礼するね。僕の所の部下が来ていると、あーダナブ君もいるじゃない。あれ? セイリオス君とヒノくんは?」



 その声を聞いてへなへなと廊下に両膝を付けるダーナー。



「ダーナーくん! ようやくお家にあげてもらえるみたい。おじゃましまーす」
「あーあ、俺の聖域が……おじゃましてんじゃねーよこらぁ」









 ケーティが勝手知ったる自分の家のように入ってきて、寝ているヒカリの隣に腰かける。
 長い間出張に行っていてごめんねと言われ、セイリオスもタイミングの良さに驚く。
 本当に今日帰ってきてもらってよかった。


「あのマントのさ、材料っぽいものが見つかったんだよね。それでいてもたってもいられなくって」
「そうだったんですか」


 そしてヒカリの髪の毛をさらさら指で遊びながら、にっこりする。


「で? この僕の専門の話って聞いていてもたってもいられなくて来ちゃったんだけど?」
「あなたは呪術に詳しかったでしょう?」


 カシオが手を出すと自分の着ていた上着をケーティが預けた。


「やっぱりそっちなの? はあー、セイリオス君が憔悴しているって聞いていたから嫌な予感はあったんだよねえ。ヒノくんがその被術者かな? 正解?」


 正解と聞いてくる上司の顔は、読めない。


「はい、恐らくですが」


 そうしてセイリオスはヒカリの代わりに、今までの経緯と自分の推測を再び話すことになったのだ。
 セイリオスは恥ずかしげもなく、先ほどまでのいわゆる痴話げんかに相当するであろう話も恥ずかしがることなく洗いざらい話した。ヒカリ自身が恥ずかしくて羞恥心が爆発しそうな内容は伏せているが、それ以外は洗いざらいだ。


 スピカはお前の羞恥心死んでるのかとツッコミそうになったが、黙っておいた。因みにタウも突っ込んでいる。おいおいおい、そこはぼかしてもいんじゃない? 聞いてるこっちがもじもじしちゃうんだけど。





「なるほどー、違和感があるということでまずは僕に聞こうということにしたの。呪術となると誰が敵かわからないものね。で、ぼくを疑うことはしなかったの?」

 セイリオスは即答する。

「疑う意味がないかと」
「その信頼はとっても嬉しいよ? でもね、用心しなくちゃ。呪術の怖い所は味方も敵になるからね」


 ぞっとするほどきれいに笑って、髪をなびかせる。


「頼ってくれてすごく嬉しいから! そんなセイリオス君たちにだけ、とくべつね?」


 ケーティは自分の着ていたベストを脱いで、ソファの上にポイッと掛けてしまう。従者が見たら急いで走ってきて持ち上げるだろう置き方だ。代わりにカシオが取りに行く。

 首元のタイをほどき、シャツのボタンを一つ一つ外していく。



 そして、その流れるような所作で髪を両手で後ろへと流し。


 胸元へ手を入れた。



 チャリリと金の細いチェーンで引っかけられたペンダントが服の下から現れる。



「これ、うちのお家だけに配られる特別な宝石なんだ。限定でお家に入った人にしか分けてあげられないから、見せびらかしているみたいで申し訳ないんだけど。これ、何色に見える?」



 見せられた宝石は何もカットされていない丸い石で。

 一体何の宝石なのか見分けがつかない。



「無色透明です」
「そう、正解。これにも呪術がかけてあって、ぼくが呪術にかかっていたらこれがほかの色になってしまうんだって。だから、僕が怪しいと思ったら石を見せてと言えばいいよ。セイリオス君にならいつだって見せてあげる」





 これはお礼を言うものなのか戸惑っているとスピカやタウにも同じ説明をする。師匠たちにはしていない。

 そう思い見ていると、舌をべーっと出したダーナーが嫌そうな顔をする。

 カシオが「私たちはもう知っていますので」と何でもないように言う。





 一通り説明し終わったケーティは再びソファの上で寝ているヒカリを見る。



「ということでね、呪術って自分で勉強したほうがいいんだよね。便利だし、信用できるのは自分だけって思った方がいいんだよね」



 そして、ヒカリの服を脱がせ始めた。



「え、ええ!?」
「ちょっと、課長?」

 ふんふんと鼻歌なんか歌っている。寝ているヒカリは少しこそばゆかったのか、ふにゃっと口を曲げて胸元を隠す。


「あれれ、動かないでよ―、ヒノ君。脱がせないよ。ねえねえ、二人ともさ、そ、そっちのスピカ君もさ。自分たちで呪術掛けられているかどうかわかるようになりたくない? 呪術ってその一族によって秘伝だったりするから、今ならお得だよー」




 ヒカリの服のボタンを外していく手を止めて、二人を見比べるようにして笑った。


「もし君たちがよかったらだけど、詳しくなってみない?」



 もちろん二人とも二つ返事でよろしくお願いしますと告げた。


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