確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

恋とはどんなものなのか、よく知らない14

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 思い浮かぶのは力なきものの訴え。



「もしかしたら、権力か何かしらの力のあるものかもしれませんね」

「だろうな。呪術屋を抱え込む財力があると考えたほうがいい。野良の呪術屋なんてめったにいねえし、そんだけ戦えるから野良をやっているんだ。そういう奴はこんなお粗末な呪術の使いかたしねえよ。ヒノ、精神がったがたじゃねえか」
「そうですね。まあ、それは何もへたくそな呪術屋だけのせいんじゃないのかもしれませんがねえ……。それよりこちらの家はお部屋はいくつか余って?」

「おう、いくつか余ってるぞ。家を出たい移民にはぴったりの部屋も風呂もトイレもあるし、ベッドもあるぜ。今すぐにでもひどいことをする同居人から守るためにシェルターとして機能もするな、なんせ俺というセキュリティ付きだからな」


 ダーナーが笑っているが確実に怒っている。ヒカリがいるのでそれほど強い圧はかけていないのだろうが、それでも肌が少しびりびりとする。

 カシオが全然目線を合わせてくれない。今日今すぐにでもヒカリを保護しようと思ったらできるんだぞという脅しだ。


 しかし、話がどうやら不甲斐ない人物に対してのお叱りに移ってきたところでセイリオスは反論できない。
 ヒカリが家を飛び出して今の今まで自分の行動がも不甲斐なかった。ヒカリに会ったら謝って、優しく笑いかけようと思ったのに全然できなかった。しかも逆ギレ。


 そりゃ反論なんかしようものなら百倍返しで怒られるのだろうと想像に難くない。


 セイリオスはため息をつく。
 呪術がどういったものかわからない。



 どんな刺激がトリガーとなるかわからない以上、これ以上失態を重ねるわけにはいかないセイリオスは非常に慎重になっていた。



 ヒカリが家を飛び出していなくなった数時間前、セイリオスは生きた心地がしなかった。

 ヒカリの意思か、呪術のせいかわからないセイリオスは、まずどんな行動をとったか思い出せないほど動揺していたと思う。


 セイリオスの知っている呪術の使い方で、金庫に使われているものは失敗すれば爆発するものなどがあった。
 それが人にも施せるのかどうかはわからないが、そうされた場合一体何がカギとなるかがわからない。

 下手に刺激ができない。



 なのに、俺は馬鹿じゃないのか。

 自分をなじる。





「ということで専門家を呼びたいんですけど、いいですか?」
「専門家っておいおい、マジかよ。こんな夜更け、というかもう朝方か。こんな時間に来るようなミブンノオカタじゃないだろう」

 ダーナーがすぐにおびえた表情でセイリオスを見た。

「一応連絡は取ったんですが」





 セイリオスはヒカリを探しに行く前、魔道具関連課の夜勤から連絡が入っていたのに返事した。

 内容は「課長、帰ってきました。 リーツ」

 というシンプルなもの。

 セイリオスが今か今かと待ち構えていてくれたから、連絡をしてくれたのだろう。
 セイリオスからは「専門家に聞きたい話があったので助かります。 連絡ありがとうございました。 セイリオス」と返信した。


 その後、ヒカリがいないことに気付いて、書き置きを読んで、階段を一段踏み外して落ちた。
 受け身はとったから特に怪我はしていないが、自分の手足が震えていることに気付く。


 間違った。俺は、恐らく、きっと、間違った。

 こんな夜中に出ていくなんて、玄関から? 俺が薬を飲んでめまいがしたのは一瞬だったと思ったが違ったのか。リュックもなかった。



 窓か? 窓から?



 急いで庭に行ってあたりを見回したがヒカリの形跡が見つけられない。
 しかし、一本の木の下だけやたら落ち葉が多かった。


 あたりを目を凝らしてみてみるが怪我をしたような跡は見られない。

 地べたを這い蹲っているセイリオスに人型が近づいた。


 物音を聞きつけた人型に事情を説明し、ヒカリが戻ってきたら引き留めてくれるよう頼んだ。

 だから今頃ヒカリの部屋には動物型が今か今かと目をギンギンにして見張っているだろうし、魔紙置き場には人型が待機して、庭をぐるぐると丸いのが警戒して、その上をクイ鳥型が飛んでいるだろうと思う。



 セイリオスはとりあえず頼れる人物の顔を思い出し、ダーナーたちに街中を探して欲しいことを頼んだ魔紙を送り、家を飛び出して探しに行こうとして、走ってきたスピカと会った。


「あ? せいりお、す?」

 身体強化を使ったのか息が乱れている。王城に詰めていたから早く来られたらしい。

 大変に申し訳ないという思いと、少しだけ安堵した。


 スピカはセイリオスの服装をちらと見て、何してんの、と一言。
 セイリオスが簡単に事情を説明すると、スピカは目を剥いて、馬鹿なの、お前、と一言。
 セイリオスが家出したのかヒカリはと気付き、謝ろうとしたところでスピカが止めに入った。


「今はそれどころじゃないし、謝る相手は俺じゃないし、俺もどちらかと言えば謝る方かもしれないから。とりあえず探すぞ。師匠たちは繁華街の方探してくれるんだよな? だったら俺たちは町外れの方がいいだろう」


 そのままセイリオスと人気のない場所の捜索に加わってくれた。

 街灯もそこまでなく暗い道の方を探す。木々が多いこちらの方は整備の甘い所もある。嫌な考えばかりが頭に浮かぶ。

「ヒカリ? いたら返事してくれ」
「ヒカリ? 大丈夫か?」

 いるかわからないけれど、俺の声なんか聞きたくないかもしれないけれど、声をかけ続けるしかできなくて。


 そこで馬車の大きな音が近づいてくるのが聞こえて振り返った。





「そこでケーティ課長と合流しました」

 名前を出すだけでダーナーが嫌そうな顔をするが、気にせず続ける。
 ケーティは気になる話をリーツから聞いたから、ついでにセイリオスの家に寄ったら変なのが飛んでるし、庭を変なのがぐるぐるしているし、異常事態かとチャイムを鳴らしたら人型が来て説明をされたのだという。


 セイリオスもあまり大きな声で話すことでもないかと思い、呪術にかけられた人がいるかもしれないので内密に見て欲しいと、少し事情をぼかして相談したのだ。

 ケーティはにこりと笑って二つ返事で「いいよー、それなら準備あるからどこに行ったらいいか後で連絡ちょうだいね。僕、自分の家に寄って必要なもの用意してから王城に居るから、魔紙あるよね? あと、ヒノくんしっかり見つけてあげてね」と馬車に乗って去って行ったのだ。




 だからセイリオスは連絡した。見て欲しい呪術にかけられた人物のいる現在地の場所を。








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