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第4章
それ以上でも、それ以下でもない31
しおりを挟む「だが、医官の処置のおかげで助かったと報告書にあっただろ?」
「医官でしょ? 優秀な。あんなの普通の処置じゃ死にますよ。俺ができるのは相手の自己治癒力を高めるやり方だけなので洗脳したら普通はスルスル入るんですよ。それができない」
部下はさも当たり前だと言うように言うではないか。
「ほら見ててください」
部下がヒノヒカリの頬に手を添えて恐らく治癒を流したが、先ほどレオニスが尋問で殴った箇所の痣は消えずに口のなかも切れたままだった。
「意識はほぼ飛んでるぞ?」
「劇的に受け付けてないですね。だから、いつもの雷力も厳しいんで、隊長ちょーっと激しめに、もっと意識飛ばさせておいてもらっていいですか? それで治癒と呪術入れ込みますから。雷力にまで魔力も集中力も持って行けないです。俺、そんなことできていたら今頃医者になって、がっぽがっぽ儲けていますよ」
「あ?」
部下はレオニスの恫喝に、何かイライラしてますかと机の上のヒカリのものを適当にリュックの中に詰め込んだ。
適当だったあまり、鞄からいくつかこぼれてしまったがお構いなしである。
「ほら、こういう呪術って大抵自白されないように手とか足とか、ひどいと口腔内全部とか目とか耳にもかけるもんなんですけど、この子。舌にしかかかってない。こんな高度なの掛けられるのに実に中途半端なので変なんですけど。まぁ、つまり質問に文字で返事させたらいいんじゃないかと思うんです。ほら、手は動く。今も隊長のこと引っ搔いてますもんね」
机の上に紙とペンを出して満足げに頷く。
「なるほどな。で、いつまでやってりゃいいんだ」
「最初から最後まで。とりあえず最初は激しくそりゃもうへっとへっとですわ、くらいやっちゃってください。時間が惜しいんで一時間でもうめっろめろのへっろへろの泡吹くくらいの奴をお見舞いしてもらってから突き刺して甘やかしながら尋問と行きましょう」
お前、そこは潮を吹くくらいじゃないのか。泡吹いてたら死んでないか。さっきのちょっと根に持ってるんだろうと色々思ったがめんどくさいので口をつぐむ。
「お前……。いや、めんどくさいからそれでいい。一時間で準備しておけ、よ」
尋問は部下の専門なので言うとおりにしようと、とりあえずその体をベッドに沈め、ぎしぎしとベッドが悲鳴を上げるくらい奥を何度も突き刺す。
意識がぼんやりしていたのに、それで戻って来たのか、目に一瞬力が入ると、すぐに俺と目が合って悲しそうな色を乗せた。
喉の奥から空気が漏れるような音しかせずに、はくはくと口を動かす。誰を呼んでいるかわからないが、そいつは来ない。来る前に終わらすから。
部下が拘束されていたヒノの両手を自由にする。
いつまでも口を動かすから、その動きが無性にイラついて上から体中で覆いかぶさり、漏れている空気ごと蹂躙することにした。
さっきまでのままごとみたいな情交ではなく、一方的な蹂躙に息も整えさせず、現実との境界をあいまいにさせていく。
相手の陰茎がまた、ようやく緩く立ち上がって、それを俺の腹でつぶすように擦るとシーツを掴んで苦しそうにイく。それに合わせて俺も中に出すと、目を見張って震えた。
そして、その眦からいくつもいくつも涙がこぼれる。焦点が合わなくなってきた先に誰かいるのか。
ぽろぽろとこぼれて、なぜか思ったのはいつもこいつはどっか違うところを見てるんだなという事。
「あー、この子。確か薬の依存があったんだった。そういえば隊長、浄化棒使いましたよね? どうでした、その時の反応? あ、持ち物に解毒剤と洗浄剤あるな」
「あ? 別に普通だったと思う、が。それ、使えるのか?」
「いや、使わないですね。今使って正気に戻られても困るでしょう。じゃあ、それは大丈夫なのか。媚薬系だと下手したら心臓に来ることもあるそうだからな。この煙もあと一本多かったらやばかったかもなあ。ほら心臓ちょっと音が変でしょう? 」
煙というのは先ほどからレオニスが吸っていたたばこである。
相手に警戒させることなく意識を軽く曖昧にさせるもので、慣れてしまえばどうってこともない。
新婚の初夜にも使われるような軽い媚薬成分も入っているので、相手も気付かないうちにムラムラしてあれ? というハニートラップにもよくよく使われる。意識あってのハニートラップなので本人にも罪悪感がありありの一品で、心を折る小道具にはちょうどいい。
「あ?」
部下はどこからか出した調査書をぺらぺらめくりながら、機嫌の悪そうな声を出すレオニスに笑いながら続けた。
「もしかしたら医者と暮らしているのはそう言うことがあるのかもしれないですね。薬の慣らしとかして浄化棒もいけるようになったのかな。まあなー、突然連れてこられた先で怒涛の展開だもんなあ。普通の人間生活を送れているのがすごいですよね。それを隊長、さすが鬼だなあ。人の心がないって言ううわさも本当では。ほら話してる間も忠実に止めないんだもんな。仕事の鬼! よっ! その調子。ほらほら、この子も喘いでますよ。声聞こえないですけど。っていうかケツ、かわえっろ。うわわ、こんなつつましそうな感じして隊長の全部入ってるんですか? ええ? 神秘。人体の神秘を俺は今、見ている気がする」
「おい、黙れ」
この部下は少しおしゃべりなのが玉に瑕で、こうやって意味のないことも重要なこともペラペラ流すように話すので、いちいち止めねばならない。
あと、仕事場からより離れて、こういう潜入任務の時は気が緩むのか、ものすごく下世話だ。この場はオンオフで言えば、オンの方じゃないのか。
「ってことは、浄化棒も」
「あんまり使わない方が好ましいみたいですよ。最新のカルテは手に入らなかったんでわかんないすけど。だから、洗うのはお風呂でしてあげてくださいね」
「はっ、だれが」
もう二回も出してしまったが仕方がないので、そのまままた抱きつぶす。
次は少し角度を変えて休憩させる暇を与えさせない。部下は雷力で文字が書けない代わりに、インクを使って今回は呪術を施すことにしたようでインクを調合し始めた。
甘ったるい煙の中につんとしたインクのにおいが混ざる。
つながっているとわかるが、腕の中の少年は声は聞こえているようで、部下が言うことに反応していた。
だからレオニスも揺さぶってみる。
「当たる角度が変わると、感覚も変わるか? お前の中、しゃぶりついてくるぞ」
唇をかんだので、もう一度口の中に指を入れて噛まないようにする。
治癒が使えないんだから、勝手に傷を作るなよな。つながっている部分から白濁とした液体がこぼれてきた。まぁ二回も出したから。掻きだすついでにもういっちょ深くいくか。それぐらいの感覚で何度も相手する。
もう意識はもうろうとしているのか、ぼんやりした瞳が瞬きを忘れている。
こちらも見ず、ただ涙を流し、呪われたように文字が浮かぶ舌をだらりと出して。
「お前、そんなに頑固で可愛げなくて、よくやっていけたな」
そして汗で張り付いた額の髪をかき上げてやり、もう聞いているかどうかわからない耳に語り掛けた。
水が流れる音がする。室内を見渡せばだれもいない。
ヒカリを仕事で痛めつけていた人は恐らくあの水音の正体だから、お風呂に行っているのだと思う。
汗すごかったもんな。かくいうヒカリもひどいものだが。球技大会でバスケした時くらい汗をかいた気がする。
もう一人の人はなぜかヒカリの隣で胡坐をかいて寝ている、と思う。舟を漕いでいる。
ゆっくり動いてみるが、相手がヒカリに反応する気配がない。
おそるおそる、腕を動かし、ベッドの上に散らばっていたヒカリの持ち物を手に取る。
そして、それをゆっくりと床で伸びていた、今、目の前で舟を漕いでいる人の腰に当ててスイッチを押す。
「いっ」
咄嗟にその人の口を抑えてゆっくりとベッドに寝かした。
セイリオスに聞いてなかったけれど、雷撃びりびりくんは一日何回までなら当てていいとか使用回数はあるんだろうかと思いながら息をしているのを確認した。
急いで机の上のものをリュックに詰め込む。
とりあえず脱ぎ散らかされている靴下やパンツも適当に詰め込んで、ズボンとシャツと靴を身につける。ボタンをしめようと思ったけれどできなかったのでローブを羽織ってしまう。
そうすれば見えない。ちょっと暑いけれど何より周囲から見られないのならその方がありがたかった。
なぜかヒカリは拘束されておらず、罠かと一瞬思うが、かける意味が思いつかず逃げられそうなら逃げるべきだとリュックを背負う。
一刻も早く立ち去りたいのに体が震えるし、足はがくがくしているし、空の色が時間の経過を示していた。
扉の外に出るのが怖くて、窓から外を覗くと下に植え込みがあり、窓の下に足を置けそうなところもある。こちらからの脱出を試みることにした。
その前にスピカ特性お茶を口にして、窓に手をかけた。
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