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第4章
それ以上でも、それ以下でもない21
しおりを挟む実際には、自分がシーツの上で身動ぎする音しかしない。けれど、ヒカリの耳は大変優秀なので、すぐに思い出せる。
二人の瞳を思い浮かべて、声を耳の中で再生させたら自分の体にびりびりっと電撃が走って、白濁が飛び出していた。
そしてその勢いのまま、そこにあったタオルに胃の中のものを吐き出した。
幾分か気分がましになったころ、自分のべたべたになった手を拭って下着を身につけパジャマのズボンを穿く。
汚れてしまったタオルを中身がこぼれないように包んで、そっと階下に行き、汚れを落とし盥に水を張ってつけ置き洗いをした。
次の日、セイリオスに夜中何かあったかと聞かれて、汗がびしょびしょでタオルを水にぬらして拭っていたと言えば、納得してくれたが危なかった。
このままではいけないと思うヒカリはなるべくいつも通りを心掛けた。
ご飯は絶対お代わりをしよう。たくさん寝られるように体をたくさん動かそう。楽しいことを毎日ひとつは見つけよう。好き以外の言葉は正直に全部伝えよう。
何かを失ってしまっても人間は生きていけるから、まだ始まってもいないうちに終わった恋心なんて、あっという間に過去になるに違いない。
それでも、どうしようもないときに考えるのはその恋心のことで。
ついつい、沢山の選択肢を想像してしまう。
僕が好きって言って、スピカと恋人になってしまったら、周りはきっと思う。
あぁ、やっぱり。噂は本当だったのだと。
この国で医務官をしている人にはそういった噂が立つのはよくない事なのだろうと、ここで過ごしているうちに分かった。
だから、スピカの想いに応えるわけにはいかないと思う。
そのうえ、ヒカリはスピカによって自分の想いに気付かされた。
セイリオスのことも好きなことに。
自分のどうしようもない性に気付かされたのだ。
二人のことを同時に好きになるのは浮気というのかどうかわからないけれど、きっと不誠実なことだ。
好きだと告げるなら自分のこの正直な思いも言わないといけない。
想像すると寒気がする。
だって、絶対軽蔑される。
ヒカリにかけられた言葉を一つ一つ思い出せる。
今なら何を言っていたのか一つ一つわかる。
自分が淫乱でふしだらなのだと。
しかもエッチで、沢山されたあんなことを二人としたいと。
掛けられたたくさんの言葉は真実だったことが、ヒカリにはとてもショックな事だった。
お前なら、一人も二人も同じだろう?
一人じゃ満足できないだろう?
お前の体が悪いんだ。
さっき一人食ったのにもう次のが欲しいって言ってるぞ。
淫乱だからな。
お前は人間より公衆便所の方が似合ってるかもな。
よかったな。お前を使ってくれる人がいて。
こんな卑猥な穴だから、使ってやってるんだぞ、ありがたく思え。
ヒカリには容易に想像できてしまった。
ダーナーが言っていた。二人に傷を付けたくないんだという言葉を自分も思っている。
だから、ヒカリは選ぶことができない。
自分の想いを伝えるという事が、スピカの仕事の邪魔になるのは目に見えている。
セイリオスには伝えることで嫌われるかもしれない。
でも、優しいから家には置いてくれるかもしれない。
その先にどうしてもいやな想像ばかりが浮かんでは、消えてくれない。
自分が言われるのは別にいい。気にならない、は少し言い過ぎかもしれないが、ヒカリの中で治療された人としての心が二人といるだけで日に日に強くなっているから。
ただ、あの二人があの目で見られると思うと耐えられやしないと確信できる。
じゃあ、もし想いを告げて二人と恋人になれたら、二人とも周りの言葉なんか気にしないと言って付き合えたら。
きっと嬉しいけれど。
けれど、ヒカリはこの世界の人間じゃない。
いつか二人を置いて帰ってしまうかもしれない。
もしくは、この体がこの世界から排除されるかもしれない。
その時二人に残るのは、噂通りの淫乱な人間とふしだらな生活をしていたという汚名だけ。
そんなのはヒカリが耐えられない。
二人に一つも傷をつけないためには、ヒカリは自分の恋を成就させるわけにはいかないのだ。
こんなふしだらな人間のために、二人の人生をつぶすわけにはいかない。
ここで想いを我慢したら、ふしだらにはならないかもしれない。
そうしたら、まだ、間に合うだろうか。
ふしだらではない日野光でいられるだろうか。
スピカが家を出て、結局自分本位の考えで、二人を振り回していることにもほとほと嫌気がさし始めてきた。
こんなにたくさん考えているのに、どうしても好きな人が目の前にいると胸がドキドキしてしまう自分がいる。
セイリオスのおはようが聞こえて一日が始まることがうれしい。
スピカと会っていない間でも、ヒカリのことをちょっとでも思い出してくれたのがうれしい。
毎日毎日、好きだなぁと思う事ばかり浮かんでる。
それはすごく嬉しいことだから、スピカの想いには応えられないけれど、感謝の気持ちは伝えたい。
そういう考えに至ったのはわりとすぐのことで、それを考えるとちょっとした嫌な考えを頭の隅っこに追いやれた。
前から考えていたスピカの誕生日には会えるだろうかと考えて、そういえば次に会えるのは3週間後だったと思い出す。
パーティはできないだろうな。
でも、プレゼントは渡したい。
スピカがいてくれて嬉しいんだって、思いはきっとふしだらじゃないと思うから。
一人眠れない夜に、笑って誰かのことを想える幸せに感謝をした。
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