確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

こっそりお祝い

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 今日の献立はヒカリが提案したチリコンカンと言う食べ物だった。

 あとはキャベツがメインのスープに、ポテトサラダ、キノコの炒め物、青菜の炒め物、チキンの香草パン粉焼きにチーズで作ったケーキもついている。


 最後にチリコンカンを包む用のトルティーヤをヒカリは器用にフライパンで作っていた。


「すごいなあ」
「ふふふ、フライパンをちゃんとつくたら、できるよ」


 お玉で生地をフライパンに流して火が通りきる前に手首を回して生地を丸く広げる。膨らんできたら焼目をチェックしてひっくり返す。
  
「あと十枚は絶対いるから、スピカも作って!」


 と二人でキッチンでフライパンをくるくるしていたら、セイリオスが帰ってきた。
 献立を観察しながら、これ、辛すぎないか? とスピカに尋ねてくる。


「んー、これくらいがいいらしい。因みにこっちはちょっと甘いほう。二つ用意してあるんだなぁー、これが」


 スピカは辛いほうが好きなので、嬉しいのだが、いつもはヒカリが食べれるような辛さに抑えている。
 それを知ってか知らずか、ヒカリが今日の辛さは2つ作ろうとせっせと作っていた。



 片方はトマトが味のメイン、片方はスパイスがこれでもかと多種多様に入れられている。
 セイリオスが手伝うことないかと聞くので、ヒカリがサラダを頼む。



「あのね、トルティーヤにはさむから、はさみやすいかんじで!」
「はーい」



 ヒカリがとても楽しそうなので、本当にあの中庭でのことは尾を引いていなさそうだとスピカはほっとした。
 空元気かとも思ったけれど、楽しそうだし何よりセイリオスが聞いて来ない。

 帰り道、ヒカリが大きな声で決めたと言った。
 何を決めたんだろうと聞けば。




「ねぇ、いまからちょと、わがままいっていい?」

 と聞かれた。



「物にもよるけど、いいよ」
「キョカ出すのはやっ! はははっ」



 そのあと、今日のご飯の献立は決まっているのかと聞かれ、家にある物で何かしようかなと話していたら、こうなった。作りたいものがあるから、買いに行きたいんだけど、と二人で寄り道して大量に買い込んだ。



 それに、さっきから隣で一生懸命フライパンを回しているヒカリのお腹がグーグー鳴っているので、早く食べたいんだろうなと言うのがわかる。

 お腹が鳴いているなら大丈夫。
 スピカも自分の手元のフライパンをくるりと回した。


 細かくしたミンチ肉がトマトで真っ赤に染められて、中には市場で買った適当な豆がゴロゴロ入っている。チーズで作ったケーキはほんのり黄色い色味で、ヒカリ曰く「かわいくできた!」と言っていた。ので、成功だと思う。



 最後にベリーで作ったソースで何やら文字を書いている。

「かんせい!」



 見た目も楽しい料理になったようで食卓が華やかだ。
 セイリオスも隣で、今日は何だかお祝いの席みたいだなと料理を眺めている。

「では、てをあわせてください。いただきます!」



 今日の料理はヒカリしか味見していないので、興味津々に二人を見ている。

「あ、うまい」
「ん、おいしい」


 どれもお店で売れ残ったお得な食材で作ったもので、ヒカリはそれを見ながら献立を立てたのだが、おいしそうに食べる二人を見てにんまりと笑った。


「それにしても、今日はヒカリが主導で献立を考えたのか? あんまり知らない料理もあるな」
「うん、やおやさんで、お豆がすごくやすかったから。本当は『お赤飯』とかつくりたかったけど、ここのおこめじゃちょとむずかしいし色合いだけね。でもケーキも作ったから」

「ん? なに、この料理何か意味があるの?」
「うん、へっへへー」



 やけに照れて、しかし胸を反らしてどこか誇らしげに、少しおかしな笑い方をする。


「『お赤飯』はお祝いのとき、に食べるもの、なんだ! 赤くて豆の入ってるごはん。のつもり、だから、たべて、食べて!」

「ふむ、お祝い……」
「……なんかあったっけ?」



 セイリオスと顔を見合わせながらも食べすすめる。
 ヒカリもおいしそうに食べ、オセキハンは炊いたことがないから、難しいだろうなぁ。こっちではお祝いには何を食べるの? へー、そうなんだ。じゃあ、次はそれも作ろうかなぁ。

 などと楽しそうに、おいしそうに。


 話の合間にも、二人の頭はフル回転している。 


 移民百日目記念とか?
 勤続百日目とかじゃないか?


 目と目で会話してお互いに答えは出ない。
 何? 何かめでたいこと?

 そろそろ食卓の上の料理がなくなってきたところで、ヒカリが立ち上がる。



「あのね、『お赤飯』はね、おいわいには何でも、使えるかんじ、なんだよ。でもね、別にそうじゃない、日にも食べるよ。縁起がいいんだって。ニホンでは『コンビニ』……ちょっとしたお店でかんたんに買えるものだったし」


 冷蔵庫に冷やしておいたチーズケーキを持ってきて、またもやにんまり。

「たぶん、ちゃんとあってるかはわかんないけど、こちの時間とあちの時間が同じかわからないからなー」



 何やらケーキの上に、子どもが遊ぶおもちゃを幾つか刺し始めて、二人は慌てた。


「え、ひ、ヒカリ?」
「それはきれいだけど食べられないんだ」
「しってるしってる。だいよーだいよお」
「代用か?」
「そうそう」


 細長い棒の上にきらきら光る魚のうろこを貼り付けたおもちゃだ。
 人形に持たせたり、人形の頭に刺したり、胸元の飾りに使ったりする。
 日光に当てておくと、暗闇の中でほんのり光って、きらめく。


 それがケーキの上に鎮座しているのは何とも、奇妙で。


「本当は、ろうそくがよかたけど、ちいさいのなかったから」

 ろうそくと言われてさらに二人は頭をひねる。
 ケーキに明かりをつけてどうするのだろうか。



 ヒカリが部屋の明かりを消して、はい、ご一緒にーと手拍子を始めた。
 真似してーと言うのでヒカリが一小節、歌うごとにその後に二人で続ける。
 少し変な節が入ったりするが、ヒカリはそれも楽しいのか、ふふふと笑いがこらえ切れていない。


「ディアー、ぼーくー」
「でぃあー、ぼーくー」


 そこはヒカリでお願いしますと言われ、二人で、でぃあーヒカリーと言い直す。


 途中にでぃあ皆ーも入れていたので、そこだけラクシード語で歌わされて二人はおとなしく歌っていた。


 そして最後に全力の拍手をして、ヒカリがろうそくの代用にしたおもちゃの先端を一つずつ、ふーと息を吐いた後にぎゅっと握る。握ると少しの間、光るのをやめるおもちゃなので、明かりが一つ一つ消えていく。
   



 全部消えて、部屋の明かりをつけた。




 何やら儀式をしたような気持ちになりながら、ヒカリが席に着くのを待つ。

 コホンコホン。



「うたってくれてありがとう」
「うん、何の歌なの?」

「えっと、いつもお世話になっていますので、おいわいの品をゾウテイしたいと思います」
「お祝いはちょっと違うんじゃないか?」
「まぁまぁ、きにしない、きにしない」


 足元から、ごそごそと何かを取り出そうとするヒカリをただ、流されるように二人は見ている。





 おめでとうがたくさん届きますように。

 そう思ってろうそく代わりのおもちゃの明かりを一つ一つ消していった。




 目の前の二人にはどさくさに紛れて誕生日に参加してもらったけど、いいかなぁ。
 だって、今一番ありがとうを言いたい二人だから、いてもらわないとむしろ困るから。


 ヒカリが今日と言う日を迎えられることの功労者を招かないで、一体どうするというのだ。








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