確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
上 下
293 / 424
第4章

帰り道の夕焼けは目に眩しい12

しおりを挟む



 準備体操を終わらせたヒカリは神官と手をつないで泉に入っていく。


 中央に行けば行くほど深くなるが、中央から湧き出た水を口に含まなければならないため、安全のためについてくのだ。
 中央に行けば足がつかないほどの深さになる。
 少し幼い子どもならパニックを起こして溺れることもあるので必要な措置と言える。



 はじめはピタピタと足の裏に少し冷たい水がつくくらいだったのが、二歩、三歩と続いていくうちにいつの間にか膝のところまで水深が深くなって、冷たいと感じる。



 というか、しみる?


 体かだいぶ重く感じる。
 なのに、歩く足が止まらない。
 ザブ、ザブ。


 隣を歩いてくれている神官は背が高いので、まだ足が着くのだろうが、ヒカリはもう足が着かない。
 手で水を掻き分けるように進む。


 もう冷たさは感じない。
 ただ、前に進みたくて。


 滾々と水が湧き出てくる、中央にくると底が見えないくらい真っ暗で手を使ってヒカリは浮いている。
 横で神官が足がつかないはずなのに、立っているように見える事にも気づかず、ヒカリはその暗闇を見つめた。



 中央までやってきたら、一度頭の先まで潜る必要がある。
 そして湧き出てくるところから水を両手に掬い、飲み干す。



 神官がもう一度説明しようと名前を呼びかけた。

「ヒノさん」



 水に吸い込まれるようにヒカリが消えたように見えた。
 静かに波が小さくたつ。



 その波紋がセイリオスたちの足元にまでやってきた。


「……ヒカリ?」




 一瞬周りの音がすべて消えたように感じて、セイリオスは足を出す。見ればスピカも片足を泉につけていた。









 あぁ、おいしい。

 上を見上げれば日の光が降り注いでいて、眩しくって目を細める。
 額に濡れて張り付いた前髪をかき上げる。


 何だか喉がすごく潤ったように感じて、口の端に垂れてきた水を舌でぺろりと舐める。
 横からざぶざぶと聞こえるものだから、視線をやると腰ぐらいまで浸かった二人がいた。


「あれ? ふたりとも、どうしたの?」

 片腕を神官につかまれながら、ヒカリは微笑んだ。


「ぬれちゃったら、帰りびしゃびしゃだよ? ふふふ」





 

 ヒカリが笑っていると二人がそのままジャブジャブやってきて、ヒカリを掴んで戻るぞと連れて行ってしまった。
 苦笑している神官を置いて。



 ようやく足がつくところに来て歩こうとしたら、スピカに上着をかけられて、セイリオスに抱き上げられてしまった。


「わわわ」

 二人はちょっと難しそうな顔をしてサッサとヒカリを更衣室に連れていく。
 二人も水温の低さに驚いて、過保護が発動したのだろう。


 こうなったらさっさと着替えようと服を脱ごうとするが、結んでいた紐が濡れてなかなかほどけない。
 じゃあ、ほどかず脱ごうと思っても布が張り付いてなかなか脱げない。


 濡れた布って重いんだなぁ。



 お尻が丸出しになったところでスピカが慌て始めた。


「え? ええ? ヒカリ、ちょっと」
「ん、なに?」

 せっかく半分まで脱げていた服を強い力で元に戻されてしまった。


「なんで何も穿いてないんだ?」


 セイリオスがぎょっとしたように告げてくるので、ヒカリは首をかしげる。
 因みに泉に入る前に準備体操をしていたヒカリから、ちらりと覗く太腿がなんだか落ち着かなくて、近くで見えないように壁になるように立っていたのだが、しててよかったと思った。


「だて、パンツぬれたら帰り、ぱんつなしで帰らないといけないし……?」


 何か間違っていたのだろうかと考えている間に、スピカが服の紐をほどいて、両手を上げさせられて服を脱がされ、瞬時にセイリオスがふっかふかのタオルで包んできた。
 それでゴシゴシ拭かれ、スピカが暖かい風をかけてくれて髪も乾いた。


 寒くてちょっと鳥肌がたっていたので、スピカが出してくれる暖かい風が気持ちいい。


 ちょっと眠くなる。
 寒中水泳とか、それに関わらず水に入った後ってどうしてあんなに眠くなるんだろうか。

 プール後の授業とかで、頑張ってノートに字を書こうとするけど震えた字になっちゃって、気付けばコクリコクリと舟を漕いじゃって。
 やっぱり水の抵抗とかで体力を使ってるんだろうなと着てきた服に着替えながら考えて、目の前の大人二人を見る。


 二人とも、ヒカリの服がどうたらこうたらとか言ってるけど。


「ふたり、服ぬれちゃたね。ぬぐ? この白い服、かりる?」

 更衣室の外から神官の声がした。


「もしよければ暖炉にあたりますか? そこで乾かしては?」

 三人して笑ってお願いすることになったのだった。













しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」  祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。  こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。  あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。   ※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...