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第4章
忙しいのは変わらない3
しおりを挟む何だか焦ってしどろもどろになったセイリオスにスピカはジト目を向けた。
浮気がばれて言い訳している人のようにとしか言えないほどしどろもどろである。
ヒカリもセイリオスが何を言いたいのかわからず、こんがらがり始めたので首をひねる。
確かにヒカリは結婚とかを考えていないので養うのは自分だけで十分なのだが、セイリオスとスピカは違うだろう。
明日にでも結婚したいと思う人が出てくるかもしれないし、そうじゃなかった場合も、この世界で老人ホームとかなかったらお手伝いさんとか雇わないといけないんじゃないかな。
とか思うものの、目の前の二人は何だか焦っていて、話が少し通じなさそうだった。
しかたない。
ここはヒカリが折れるしかなさそうだとそれはわかった。
二人の言うことを聞いていて間違ったことは、今のところないし、二人はヒカリに期待していないわけではなく、どんな結果でも移民になれたのならどんなこともできると考えているのだろう。
それに。
「ぼくも二人とおなじとこに働きに行くの、楽しみにしてるから、言うこと聞いて寝ます。ご」
「ストップ。謝らないで。ヒカリがどうしても徹夜したいならそれを止める権利は俺たちにはない。んだけど、本当にヒカリなら受かると思ってるしすごく期待してる。ただ、現状、ヒカリの睡眠サイクルをしっかり整えるほうが、俺は受かる確率が上がると思っているんだ。試験は体力勝負だから。だから、これはアドバイス。先輩としてのな?」
「主治医としても?……んーじゃあ、寝る!」
よっしじゃあ、寝るかとほっと胸をなでおろし、スピカは祈った。
スピカは医務課の試験のことならどんな内容と答えられるのだが、魔道具関連課のことは正直よくわからない。
あの課長がその時ハマっている魔道具に関して出題傾向が大幅に変わるらしいので、毎年傾向がつかめず過去問が役に立たないので有名なのだ。
しかも、実技が重視か、専門教科が重視なのかもいまいちわからない。
だから、本当に心配しても無駄なのだ。
祈るぐらいしか前日にできることなんてない。
セイリオスはやはり首をひねる。
あの課長と話がはずんでいるのならきっと大丈夫なのだと思う。
要はそこが大事なのだ。
あの課長と魔道具について話せているのだ。
だとしたら何の心配がいるのだろうか。
今ハマっている魔道具に関してはヒカリともきっとよくお話していることだろう。
やっていることを試験でまたやるだけのことだ。
それの何が不安なのか。
やはりわからない。
ので、うまく説明できなかった。
だから、布団の中で何度も寝返りを打っているヒカリの不安が伝播してきて、目がさえてしまった。
別にどうしても一緒に働きたいのなら、臨時職員の試験は年に一回は受けられるし、普通に試験を受けてもいいし。
そういえばよかったかなと思ってヒカリの瞼を見ていたら、ヒカリがパチリと目を開けた。
「セイリオスも眠れないの?」
ヒカリが心配そうに聞いてくるものだから、セイリオスも正直に話した。
理由がわからず謝られることほど腹が立つものはないからだ。
「……ヒカリをもっと上手に励ましたかったなと思って。うまくヒカリの不安をわかってやれなくてごめんな」
「え? そなこと? あやまることじゃないよ。すぴかもいってたしょ」
それに僕も考えてたんだとヒカリ。
セイリオスがうまく説明できなかったのはきっと、試験に落ちるって考えられなかったんだろうなって。
だから、ぼくの不安もよくわからなかったんでしょ。
それ、同じだよ。
僕はきっと試験に落ちるって、受かるわけないって考えちゃったからさ。
セイリオスの信頼がよくわからなかったんだよ。
でも、よくよく考えたら落ちても、またチャンスはあるよね。
あとね、励ましたいって気持ちうれしいし。
励ます言葉がうまく出てこないときは、頑張れって。
「ちゅうしてくれたら、すぐはげまされるよ。よく兄ちゃんに『単純な奴だな』って言われてたからっ、あ」
こそこそ話していたヒカリの向こう側からスピカが起き上がり、すぐにヒカリの頬にチュウをした。
「はい、今、俺がヒカリの不安吸い取ったのでヒカリは眠れます。オヤスミー」
とパタリ。
ヒカリは目をぱちぱち。
えっと、じゃあ。
と言って、もそもそとヒカリがセイリオスに近づいて。
セイリオスの枕に押し付けていた方の頬に近づき、唇をつける。
「はい、セイリオスのフアンモスイトッタから、ねれる、ね? オヤスミー」
「なに!? じゃあ、結局ヒカリに不安がうつっちゃうじゃないか。はいもう一回、おやすみー」
とちゃっかり二回目のキスを今度は額にして、ヒカリがクスクス笑い、スピカも笑い、セイリオスも笑って。
本当はしっかり不安だったけど、楽しいうれしい気持ちの方が上回ってしまって、移民二日目の夜もぐっすり眠れたのであった。
そして、移民三日目にして試験を受けるという鬼のようなスケジュールになってしまったのだった。
見ていると思われると寝れないかなと思い、スピカは窓の方に顔を向けて背後の気配を探る。
ゴソゴソと音がして何度も寝返りを打っているようだ。
スピカはかつてこう言われたことがある。
「どうせ一発で一級で受かったあなたに何かわかるわけないわよ。できない私の気持ちなんてっ。平民って言ったって、もとは貴族のボンボンだったんでしょ! 元が違うんだから、私にも押し付けないでよ。私だって努力してるんだからっ。あなたっていっつもそう。正論ばっかりで、自分が正しいって顔してさ。放っておいてよ!」
後になって思い返せば、確かに無神経な発言だったなとわかる。
でも、なかなか試験に通らず悩んでいる相手のためを思って勉強を手伝っただけであって。
そう言われるともう何もできやしない。
正しいなんて思っていない。
いつも悩んで悩んで、これが正しいのか、悪くないのか考えている。
それなのに判断を迫られるときは時間なんていつもほんの一握りしかなくて。
そしてその時も結局言い返さずに、わかる大人のふりをして何も感じていないようにふるまった。
今回も同じ。
きっとヒカリはどうせできる人にはわからないよって思ったんだろうな。
そうヒカリに距離を開けられて、少しショックだった。
祈るくらいはしていてもいいだろうか。おせっかいにはならないだろうか。
窓からのぞく星に祈っていると後ろで二人が話始めた。
眠れなかったのは三人とも同じで、ヒカリはそのもやもやをしっかり考えていたようで。
少し申し訳なさそうに、でも、スピカが言った謝らないでという言葉をしっかり覚えていてくれて。
その内容が聞いていてすごく嬉しくなった。
だから、その気持ちを言葉じゃ表せなくって、ボディランゲージで表しただけであって。
断じてやましい気持ちは一つもない!
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