確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

まだ獣にはなれない9

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 ちゃんと規則に則って。
 その後、保護してあげて、体を診察してあげただけで。


 ヒカリがされたことからしたらなんてことない。



 ただ、あの優男風騎士がキメていた薬と治癒魔法の相性が恐ろしくいいことは一般的な知識ではなかった。


 規則的にも患者の命の方が優先される。
 気持ち良すぎるからやめてほしいと言われてもそれは治療をやめる理由にはならない。
  



 医者とは時に苦渋の決断を迫られる。


 患者にとっては治癒魔法が得意な威力もスピカほどもある人間が来たのが運の尽きだっただけで、文句を言ったならば、全力の治癒の何が悪いのだろうと言われるだろう。


 ヒカリにかけたのと同じくらいの量をかけただけだ。時間にしたら十分の一くらいの時間だ。



 しかも本人がそんな薬をキメていたことなんて知らなかっただけで、しかもその後全身スキャンを体の隅々まで行ったせいで、体中が敏感になって、さいなまれたなんてことは知らない。



 規則には苦痛を取り除く、またはなるべく苦痛を与えないような治療を行うことが望ましいとある。
 媚薬の場合は大抵、快感を与えないといけないことが多いのでそう言ったことが治療の一環にもなると記されている。  



 それに、緊急を要していたから、全身スキャンが少し乱暴になって、脳の奥深くまで容赦なくいったから。
 たぶん、もう普通にイケなくなっただろうななんてことは実証していないから俺にはわからない。


 あの薬は鉱山では手に入らないだろうし、スピカのような精密な全身スキャンができる人物が鉱山にいるとは思えないから、あの人が一生イキそうでイケないだろうなーなんてことは知らない。




 だって、あの人が鉱山送りになるような罪があったなんて知らないわけで。


 一緒に送られる乱暴な騎士はどう思うだろうか。相方があんなんだったら。
 因みに脳みそは弄っていないので、まったく正常だ。



 だからこそ苦痛でもあるのだろうが。



 なんてことも知らない。




 後、セイリオスがキレたら物理的に逝ってしまうこともある。

 としたら、スピカのやったことなんて人助けの一環だと言ってしまえる。




「それに、俺はヒカリが笑っているところが見たいと思う。どんなヒカリもいいんだが、笑っているのが一番いいと思う。だから、スピカ、それにはお前が必要だと思う。医者に絶大な信頼を置いているから、いつまでもそのままでいてくれ」



 ちらりと後ろを見ればセイリオスがヒカリをベッドに寝かせている。その手がセイリオスの服をつかんで離さないのでちょっと困りながら。




 ほーほー、そういうこと言うわけ?

 医者だからって信頼できるなんて簡単に言うわけ?
 俺だって医者の前に人間だっつーの。
  


 失敗もするし、諦めることもある。
 後悔もするし、反省が生かせなかったこともある。
  

 自分に負けることもあるし、自分の不甲斐なさを置いて世の中の不条理とかに恨みつらみをぶつけることもある。
 人のせいにもするし、常にいい人だなんてやってられない。




 だから、医者だからって全幅の信頼なんて置かれたら困る。

 俺に過剰な期待をしている同居人二人をジト目で見る。

 こいつらに語って聞かせようか。世の中にどんな医者がいるのか。




 はぁとため息をついて、ごろりとスピカが寝転び、立てた膝の上に足を置く。
   


 俺は言ってやらないけどな。
 セイリオスはヒカリに掴まれたまま、諦めて横になっている。


 何だかんだ言って、期待に応えようとしちゃう自分のがめつさにため息が出る。



 笑っているところが見たいなんて、俺も同じだっての。
 だから、笑わなくなったら苦しくて、医者じゃなくなってしまいそうで、人じゃなくなってしまいそうで。



 でも、その道を外れるなっていう。
 人だから感じる激情に身を任せるなって、医者だからという理由で。

 しかも信じてるんだもんなぁ。




 それで笑いかけてくるんだから、やるしかないでしょうとまたため息を一つ。

 スピカはヒカリの布団を首元まで上げた。風邪一つ引かせたくない。
 胸元をポンポンと数度たたいていると、セイリオスが真剣な顔でこちらを見ている。





 やめろ。お前となんか見つめあいたくないっての。

 ヒカリがこの世にいると感じる限りは、あと、お前がお前でいる限りは。
 俺も、まだ。



 一発セイリオスの頭をはたく。

「やっぱりヒカリが移ってるぞー。俺はもう寝るー。オヤスミ―ヒカリー」
「オヤスミ、ヒカリ」




 二人とも、もう寝ているヒカリに対してお休みと言う。
 それが聞こえたのか、ヒカリが小声で何やら声を出した。





 二人して何だ何だとのぞき込む。





「ふひっ、ふふは、へーりほー、ほ、ふみー。モグモグ……おいひぃ」




 二人とも吹き出すのを我慢して布団の中に潜り込み、そのままこらえた。






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